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【三人閑談】
片づけの極意

2023/11/24

収納はモノの取りやすさが第一

小関 最近はコミュニケーションがとれていない家庭が増えていると感じます。忙しくて時間がないのかもしれませんが、対話の時間が増えれば部屋も片づくのかなと思います。

橋本 逆説的ですが、片づけができるとそういう時間も取れると思うのです。わが家ではよくボードゲームで遊びますが、家の中が片づいていなかったらこういう遊びもできないなあと感じます。テーブルが片づいていれば子どもと一緒に料理もできる。片づけは質の良い生活のためにもやはり大切です。

小関 私は子どもや家族の困った習慣を変えるために、色々な作戦を立てましょうという話もします。例えば、家に帰ってきて靴下を脱ぎ散らかされる場合は、玄関にカゴを置き「ここに靴下を入れてから上がること」と貼り紙をするのも有効です。

橋本 散らかしっぱなしになる場合は、置きっぱなしにするその場所を収納場所にしてしまうのが良いと私も思います。

萩原 収納と言えば、以前、無印の店舗で倉庫スペースが狭いので広げてほしいという陳情がありました。それに対し、よしわかったと言って、社長が逆に面積を減らしてしまいました。それはつまり倉庫を売り場にし、在庫はすべて出そうという発想なのです。倉庫があることが多くの在庫を抱えさせていたのですね。

橋本 私も収納は必ずしも多いほうが良いとは思いません。収納にこだわるのは日本人の特徴ではないかと思いますが、ウォークインクローゼットって大抵使いにくいですよね。

小関 同感です。アクセスしにくい収納にはモノを戻さない傾向があるので、ワンアクションで出し入れできることが大切です。

女性が強い家庭は風通しが良い?

萩原 長い間、収納用品の開発に関わってきましたが、片づける行為についてはあまり考えたことがありませんでした。でも朝起きて夜寝ての繰り返しの中で、ある時、寝る前にきれいにしておけば翌朝に散らかった状態で起きることはないと気づいたのです。

当たり前と言えば当たり前ですが、台所の洗い物がシンクに残っていたことがあり、その日は気持ち良い朝ではありませんでした。それ以来、洗い物は夜に片づけることにしました。

小関 1日が一からスタートできますものね。前日の片づけから始まる朝は気持ち良くないと私も思います。

萩原 前の日にやっておけばすぐ済むのに、次の日にやるとなぜか時間がかかる。そのうちに何となく僕が洗い物当番になりました。食べ終わってすぐに洗えば、洗剤もあまり使わずに済むし、習慣になるとそれほど苦じゃないのですね。

橋本 私も忙しい人ほど1日完結でやりましょうと言います。その日に出したモノは数分で片づくはずなので、できれば夕飯前と寝る前に一度はテーブルや床のモノをなくしてみませんかと提案しています。

萩原 私は台所周りで過ごす時間が一番多く、乱雑になりやすいのも台所なのでそこだけでも気持ち良くしておきたいのです。

小関 萩原さんのお宅は片づいているのだと思います。偏見かもしれませんが、散らかっている原因の多くは男性にあるので(笑)。

萩原 そうなの? でも、皆1人だとやりますよね。2人いることで、両方がやらないということもあると思うのです。僕の場合はわざわざ当番を決めるのも嫌だし、気が付いた人がやれば良いのですが、そうではないこともある。妻が家事をしている時に、忙しいから新聞取ってきてと言われたり。

小関 でも、それはコミュニケーションがとれている証拠だと思いますよ。やはり女性に力のある家のほうがうまく回っている感じがします。男性が主導権を握っている家庭はどこか緊張感があって淀んでいる感じがする。女性が強いほうが風通しは良いと思います。

萩原 そうかもしれません(笑)。

家での分類は大雑把に

萩原 片づけの問題は子どもに起因することも多いのではないですか?子どもがいることでモノは増えると思うのです。もし子どもがいなくて2人きりなら、あまり気にしないような気もしますが。

橋本 いえ、1人でも片づけられない人は多いですよ。私は所定の位置に戻すことが片づけの基本だと思いますが、その位置が定まっていない単身者も多い。そういう人は置きっぱなしの場所が所定の位置になっているのです。

小関 そういう方が圧倒的に多い。

橋本 子どもは散らかすのが仕事と言いましたが、それは本能的なもので、仕舞うのは動物の本能ではないと思うのです。ですが、教えれば元の場所に戻せる。子どもたちは幼稚園や学校だとできています。

家でできないのは、おそらく親御さんが所定の位置を決められていないから。それを教えることができれば子どもも仕舞えるはずなのです。

小関 私もそれが大前提だと思います。幼稚園や保育園では「おままごと(食べ物)」や「おままごと(鍋類)」と細かく分類されていても、ルールや周りの目があるので片づけられるのですが、家ではもっと大雑把で良い。家は皆一番楽をしたい場所なのでむしろ大雑把に「おままごと」という容れ物で良いのです。分類を細かくしすぎるとかえって散らかってしまいます。

橋本 私も家での分類は「おもちゃ」等でいいと思います。

小関 それは大人も同じ。たまに色々な場所から乾電池が見つかるお宅があります。これは電池の置き場所が電球や文房具等、色々な場所に分散しているからです。電気っぽいモノ、文具っぽいモノ、どちらでも良いので大雑把な分類で戻しやすくすることが肝心です。

橋本 自分で決めた分類を忘れてしまうこともあるでしょうね。

小関 あるお宅で驚いたのは、タオルの棚に水玉柄、ストライプ柄、無地とラベリングしてあったことです。もちろん中身はぐちゃぐちゃ。ラベルを剥がして「タオル」でまとめましょうと提案しました。

台所でも小麦粉や〇〇粉と、透明の容器にラベリングする方がいます。確かに美しいのですが、1カ月後には料理の途中で足りなくなり、買い置きの袋を開けることになります。そのまま入れ替えるタイミングを逸して破綻するよりも、置き場所を決めて袋のまま収納する方がおすすめです。

橋本 簡単に仕舞える状態にするのは快適に暮らす上で大切ですね。片づけはあくまでそのための手段。とくに子どもがいっぱいいると簡単に仕舞えることは至上命題になります。わが家では洗濯物の片づけは子どもが担当なのですが、子どもの服とタオルは畳まずにポイポイと引き出しに入れています。子どもは洋服を出す時に結局かき回して探すので畳む必要がない。簡単であることは本当に大切です。

片づけられる人になるには

橋本 片づけは1回では終わらないものだと知ることも大切です。よく、これで終わりですと言う専門家がいますが、実際は使ったら仕舞うの繰り返しなので、それをやり続けるということをまず分かっておく必要がある。仕舞うことを負担なく続けるためには、要る/要らないの判断を最初にやっておくと良いと思います。この判断ができると、片づけられるようになるはず。

小関 そして片づけやすい環境をつくることが大切です。それをプロに手伝ってもらうのも手ですね。

橋本 そうですね。一度頼んでみると、こうすればいいのかと分かる。

萩原 無印でも整理収納のセミナーを開催しています。自社のインテリアアドバイザーがそうした取組みをしています。例えば、だらしないお父さんというのはよくいると思うのですが、そういう場合も家庭で何とかするより、第三者に言ってもらったほうが解決しやすいようです。

小関 それは一理ありますね。

萩原 身内が言うと、煙たがられますが、他人に言われると円満に直せると思います。

小関 これはどうしてここにあるのですか?と訊くと、ハッとする方もいます。指摘されることでこれまでの使いにくさに気づき、対策を考えることに繋がります。

橋本 片づけは難しいものだと認識しておいていただくのも良いかもしれません。時々落ち込む人がいますが、やはりなかなか難しい。モノは多いし、収納グッズも様々。難しいということ、続いていくものということ、この2点を認識していただくのが大切かなと思います。

(2023年9月12日、三田キャンパスにて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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