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【三人閑談】
片づけの極意

2023/11/24

  • 萩原 富三郎(はぎわら とみさぶろう)

    株式会社良品計画商品開発アドバイザー(業務委託)。
    1977年慶應義塾大学商学部卒業。無印良品の生活雑貨等の商品開発に従事。2009年より品揃開発担当マネージャーを定年まで担当。

  • 小関 祐加(こせき ゆか)

    かたづけmom主宰、片付けアドバイザー。
    1986年慶應義塾大学文学部卒業。2007年の起業以来600軒以上を訪問、アドバイス。全国各地のPTA・自治体・企業で各世代を対象に講演活動を展開。

  • 橋本 絵美(はしもと えみ)

    はしもとFPコンサルティングオフィス代表。
    2006年慶應義塾大学商学部卒業。事業財務や家計のプランニングとお片づけプランナーとして自宅やオフィスの環境改善を提案。

整理整頓を仕事にすること

萩原 私は無印良品(以下、無印)を運営する良品計画で品揃え開発を担当してきました。商学部を卒業後、西友に入社し、30歳で店舗担当から本部の商品開発担当に異動となりました。そこでプライベートブランドをつくることになり、無印良品の開発にも関わるようになりました。

その後、良品計画が誕生するタイミングで出向となり、転籍して良品計画の社員となりました。無印の立ち上がりを経験し、定年まで衣料品以外の開発に関わってきました。

小関 無印の製品は収納用品の定番です。その製品づくりに長年関わってこられたのですね。

萩原 そうです。70歳となった今は生活雑貨部の後進指導に当たっています。お2人のように片づけのアドバイスをする立場ではありませんが、様々な生活雑貨の開発に関わりました。

小関 私は文学部心理学専攻を卒業後、企業勤務を経て、結婚と同時に退職しました。男女雇用機会均等法の1期生で、まだ結婚を機に仕事を辞める女性が多い時代でした。片づけはもともと好きで、家にいる時間が増えたことを機に、収納をあれこれ考えることがますます楽しくなりました。専業主婦を経て数年後には子育てしながらできる仕事を始めました。

片付けアドバイザーになるきっかけは15年ほど前、ママ友から相談を受けたことです。私の片づけ好きを知り「汚くて恥ずかしいのだけど、私の家を見てもらえない?」と。いつもきちんとした印象の方でしたが、当時小学校高学年だった息子さんの反抗期にもひどく悩んでおられました。伺ってみると、3DKのお宅で色々なモノに囲まれて暮らしていました。ご自分の赤ん坊の頃の服もとってあり、ほぼ床が見えない状態だったのです。

橋本 モノをとても大切にする方だったのですね。

小関 そうです。そこで3日かけて、お子さんたちが学校に行っている間に2人で片づけをしました。すると、初日は不機嫌そうに帰ってきた息子さんが、2日目に「うちの床はこんな色だったんだね」と久しぶりに笑顔を見せた。3日目には「僕の机に何を飾ったらいいかな」と笑顔でママに尋ね、下の娘さんも「私も皆みたいに友達を家に呼べる」と喜んでくれたのです。わずか3日でお子さんの表情や家族関係が変わったのを見てこれは仕事にしなければと考えました。当時は食育ブームでしたが、家の環境のほうが大切だと確信したのです。

橋本 私はもともと子どもが10人欲しかったので、商学部を卒業して早くに結婚しました。自分が子どもを産み育てながら外で働くのは現実的ではないと思い、家でお金をもらえる仕事は何だろうと考えたのです。商学部に入ったのも起業したい気持ちがあったからで、自分が得意なお金を貯めて増やすことと片づけること、この2つを生かした“片づけとお金の整理整頓”なら世の中の役に立てると考えました。

小関 “片づけとお金の整理整頓”、分かりやすくて良いですね。

橋本 私もきっかけはママ友でした。最初に相談に乗った時は無償のつもりでしたが、現金で御礼をいただき、お金をもらえるほどの仕事をしたのだと自信になりました。

6人の子どもを育てながら仕事ができるのも、家が片づいていることが大きいです。ファイナンシャル・プランナーの仕事は個別相談の他にコラムの連載やセミナー講師をしています。コラムを見てくださった方から取材や相談のお申込みをいただくなど“わらしべ長者的”に仕事が広がっています。

お金に困っている人は片づけに困っている人でもあることが多いのです。お金の相談に来た人が片づけの相談もし、片づけの相談に来た人がお金の相談もする。この両方で今、仕事が回っています。

小関 実際にお宅に伺うのですか?

橋本 片づけの相談は伺います。お金の相談はわが家に来てもらい、自宅をご覧いただくと、そこから片づけの依頼に繫がることもあります。

萩原 お子さんが6人もいると片づけは大変でしょう。一番小さい子はいくつですか?

橋本 3歳です。散らかし屋さんがいっぱいいるので、わが家では片づく仕組みをつくりました。子どもは散らかすのが仕事なのでそれ自体は悪いことではありません。良くないのはその後に片づけられないこと。「片づけて」と言ってちゃんと片づけられればオッケーです。10分後にお客さんが来るよと言えば、せーので皆片づけてくれます。

汎用性の高い収納は使う人次第

橋本 無印では、子ども向けの製品は決して多くありませんよね。

萩原 そうですね。お母さん向けの製品は多いのですが、おもちゃのように使う場面が限定される製品は積極的には展開していません。

小関 他社の製品では子ども向けの色鮮やかな収納雑貨もあります。子ども目線でデザインされているのだと思いますが、収納は鮮やかな赤・青・黄色などである必要はありません。無印のようにシンプルな色のほうが部屋はすっきり見えます。

橋本 無印の収納は子どもの成長に合わせて用途を変えられ、ずっと使えます。子どもから大人まで、色々な用途に合うのが有り難いです。

萩原 私たちにとって、道具を収めるモノはすべて「収納」です。「〇〇用」としてしまうと、その数だけ製品をつくらなくてはなりませんが、汎用性の高いかたちなら使う人次第で変えられます。

色はどうしても好みが出るので、最初は透明にしていました。今販売しているライトグレーの製品は最近のモノです。透明は中身がひと目で分かって良いという声もありましたが、結果的に色を付けたほうが売れました。透明は“うるさい”そうです。

橋本 中身が見えるからですね。

萩原 そうです。オフィスで使う方も多く、目に付く所をすっきり見せたいという声があり、再生素材を使うこともあって色を付けました。カラーバリエーションを増やさず、「コンクリートのようなトーン」のライトグレーに統一しています。

小関 無印の収納ケースは色味が良く私もお勧めします。前面が斜めにカットされているファイルボックスは定番ですね。これは来客時等に前後を入れ替えると中身が見えずに済むので重宝します。

萩原 あのファイルボックスは台所で使う方も多いようです。

橋本 そうですね。フライパン等を収納するのにも便利。

萩原 そういう方からは、“はかま”(前面の仕切り部分)を取ってほしいというリクエストもあります。はかまは強度を保つためのものでもあるのですが。

小関 確かに棚の中に入れて使う場合は、はかまがあると書類が出し入れしにくくなります。でも棚の上にのせて使う場合は、はかまがある方が見栄えが良いです。

橋本 両方ほしいです(笑)。

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