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【三人閑談】
片づけの極意

2023/11/24

“あると便利”はなくてもいい

萩原 無印にはもともと製品のタイプを増やしすぎないという前提があります。箸立てやペン立て、歯ブラシ立ては1種類で良い。肝心なのは、お客さんがそこから様々な用途を想像できるかどうかです。専用はつくらないようにしています。

橋本 わが家でも同じ製品を色々な用途で使い分けています。

小関 汎用性の高い製品を使える人は片づけができる人ですよね。片づかない人は専用のモノでなければと思い込み、その結果、モノが増えてしまう。シンプルなモノを使い回すことも片づけの極意です。

萩原 世の中にこれだけモノが溢れているのは、皆が自分の暮らしをどのようにデザインしていくかをあまり考えていないからかもしれません。

小関 私はプランターを別の用途に使うなど、元の使い方とは違う使い方をすることも多いですが、片づけが苦手な方は専用のモノを選ぶ傾向があります。コロナ禍以降にオンラインでもアドバイスを始め、外国のお宅を拝見する機会が増えました。日本は家の広さに対してモノが多いと感じます。また「家」に対する意識も違い、とくにヨーロッパでは古いモノ、今あるモノを上手に使っている印象があります。

橋本 私も日本人はモノを持ちすぎていると感じます。そして、“あると便利”なモノばかり。でも、それは大体汎用性の低い“〇〇専用”なのです。その結果、片づかないことが多く、私はいつも「“あると便利”はなくても困りませんよ」と言っています(笑)。

小関 リンゴ用の皮剥き、ニンニク用の皮剥き……そういうモノがキッチンに溢れているお宅は多いです。

橋本 どれも〇〇専用ですね。食材の数だけ道具を揃えるのかしらと思います。

萩原 一方で、そういう無駄遣いをした人だからこそ気付くこともあります。子どもの頃から無印が好きなお母さんの下で育った人でも、経験しないと分からないこともある。20歳前後くらいまでは無駄遣いしても良いと思うのです。その結果何かに気付き、モノを持たない気持ち良さが分かることもあるでしょう。

小関 講演では、子ども部屋などの個室は片づいていなくても良いとお話ししています。子どもも思春期になれば部屋でストレスを発散したい場合があるので。重要なのはリビングダイニングがそこそこ片づいていること。良くないのは、親が片づけていないのに片づけなさいと子どもを叱ることです。

橋本 片づけの目的は片づけることではなく快適に暮らすことなので、本人が色付きの収納が良いというならそれで良いでしょうし、その結果、快適ならば良いと思います。

ですが、やはり片づいていたほうが家事はしやすいし、子どもも遊びやすい。まず片づいている状態があった上で散らかるのは良いと思います。個人的な意見ですが、基本はやはり整っているほうが良い。

家庭科の授業にも片づけを!

萩原 良品計画では以前、朝出勤したらテーブルを雑巾がけするルーティンを採り入れていました。机の上にモノがないとすぐに終わるので、結果的に、机に何も置かずに帰る習慣ができました。文具などは引き出しに仕舞って何もない状態で帰る。そして翌日、ササッと雑巾がけをしたら、必要なモノを机に出して仕事を始める。これを強制的に始めました。すると、次第にわざわざ片づける感じがなくなっていったのです。

小関 すばらしい。それが当たり前になっていったのですね。

萩原 最初は皆面倒くさがっていましたが、ある時期からこれは良いとなり、自発的にやるようになりました。ある程度はルール化してもよいのかもしれません。

橋本 訓練ですよね。私は、家庭科の授業では是非片づけの基本を教えてもらいたいと思っています。夫婦共働きで男女問わず家事をしなければいけない時代です。片づけは学校では教えてくれないので自己流でやらなければならない。でも家事と同様、毎日やることなのでこれをきちんと学校で教えてほしいのです。

小関 私もそう思います。

橋本 仕事でも生活でも、片づけは必要ですし、片づけができれば仕事も家事も勉強も捗るはずです。

小関 そうですよね。雑巾がけも会社のルールならやれるのに、家でお母さんが言ってもあまり効き目がない。学校で教われば意識が変わるかもしれません。

橋本 できれば体系立てて教えてほしいのです。今までの片づけは感覚的で、物を循環させる意識もありませんでした。“もったいない”は日本の文化と言われているのに、色々なモノが商品化され、皆が買い込む。買い込んだモノを放出できず、部屋に溢れていきます。処分するところまでの仕組みを教えてもらえると、皆がもっと暮らしやすくなるのにと思います。

小関 私は講演の際に必ずその地域のゴミ分別表を用意します。それを皆さんと一緒に確認し、こんなに簡単に捨てられます、「資源」の日に出すモノはゴミにならないのですと言うと驚かれます。古着は中古衣料や軍手、フェルト等に再利用されると知ると、それなら出そうかなと納得してもらえます。循環の仕組みを知ると、モノを手放すハードルも下がるようです。

橋本 私も、不要なモノはなるべく早く手放せば、誰かの役に立ちますとお伝えしています。自分が不便と感じるなら、我慢して使い続けるよりも、使ってみたい人が他にもきっといるので早く手放しましょうと。

小関 高かったからもったいないと言うけれど、そのまま劣化させるほうがよほどもったいない。フリマアプリやリサイクルショップを利用するのも良いと思います。

橋本 それを学校で教えてくれても良いですよね。スーパーのポリ袋が有料化されたり、ストローが紙ストローになったりしていますが、それよりも皆が無駄なものを買わずに済んだり、買ってしまってもすぐに循環できる仕組みを知ってほしい。

小関 同感です。実は、私はSDGsという言葉がピンときていません。

橋本 私もそうです。

小関 SDGsと言えば皆が良いと思うかというとそうではないように思う。難しい問題ですが。

橋本 ポリ袋やストロー以外のところで、もっとできることがあるよと言いたいですね。

子どもの片づけはハードルを下げて

小関 片づけができない人ほど片づけ本をたくさん読むので情報は持っています。でも、そのせいで自分にはできないほど高度な片づけを子どもにやらせている場合もあります。

以前伺ったお宅では、お母様ご自身が片づけが苦手でキッチンが散らかっているにもかかわらず、中学生の息子の机を何とかしてほしいと言われました。早速息子さんの机を拝見するとモノが山積み。片づけていくと一番下から卓上用の小さホウキとちりとりが出てきたのです。

橋本 それは何のために?

小関 なんと消しゴムのカスを掃除するためにお母様が用意したそうです。でも、そんなことはゴミ箱を持って片手でサッと掃けば良いし、こぼれたら掃除機をかければ済む。片づけができない人ほど専用の道具をそろえ、面倒な片づけ方を子どもにさせるのだと実感しました。

橋本 道具をたくさん持ちたがる人は多いですよね。

小関 片づけが得意な人もまた、子どもに難しい整頓をさせがちです。例えば、小さな引き出しで分類を細かくし、さらに中に仕切りをする。でも結局、子どもは分類しきれずにモノが出しっぱなしになってしまう。本来引き出しの中はざっくりしていて良いのです。お子さんの片づけのハードルは下げてあげてほしい。

橋本 片づけの相談に来る方は、「夫が…」「子どもが…」と言いますが、原因はご本人にあったりするんですよね。ご家族を気にかける前に、まずはご自分のキッチンから考えてほしいです。いつか使うかもと溜め込んだコンビニのスプーンやフォークを減らすとか。

小関 まずはもらわないことですね。

橋本 モノはあるほど良いという考えを捨ててほしいです。

萩原 わが家の上の息子は20代ですが、欲がなくモノを持たないのです。親としては何が楽しくて生きているんだろうと思わなくもない(笑)。

橋本 おそらく求めているのがモノではないのでしょうね(笑)。

萩原 そう感じます。高度経済成長期はお金がなくてもやりたいことを優先していました。欲張りと言えば欲張りですが、皆そうだったのです。モノに溢れている今は皆穏やかに暮らしたいという雰囲気がある。クルマもシェアで良いと言い、一軒家を持つ発想もない。

橋本 私はそのタイプです。モノは利用できれば良く、必要な時にありさえすれば所有しなくても良い。

萩原 それで不自由しなければね。一方でモノが増えすぎて困っている人が多い時代でもありますね。つい買ってしまったけれど、数回使ったら仕舞い込んでしまう商品も多い。

小関 ネットで簡単に買えることも大きいですね。欲しいと思って注文したのに、届く頃には忘れている(笑)。未開封の段ボールが積まれているお宅は意外と多いです。

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