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【三人閑談】
片づけの極意

2023/11/24

モノと収納がぴったり合うこと

橋本 生活に必要な道具は十分揃っているのに、少しだけ改良したモノがどんどん出ていて、それをまた購買意欲をくすぐるように見せるのがクセモノです。

小関 私は逆に、無印のように定番商品を提供し続けていただけるほうが嬉しい。使い古したモノを買い直したい時にとても助かります。

橋本 そう、それが有り難いのです。子どもが増えた時に同じモノを揃えられたのはとても助かりました。

小関 他の量販店では同じモノを買い足しに行っても手に入らないこともしょっちゅうです。とくに収納用品は微妙に形が変わり、持っているモノと重ねられなかったりします。

萩原 同じ製品を供給し続けるのは、無印良品立ち上げ時のテーマでもありました。10年前と同じモノが手に入るメーカーが少なく、お客さんのほうにも、良いモノを長く使い続けられないという不満があったのです。

橋本 性能面で言うと、無印の製品はデッドスペースがないのです。100均のファイルボックスは上部が広い設計になっており、それは上に重ねてたくさん陳列できるようにするためのデザインなのですが、そのせいで下部に無駄なスペースが生まれる。結果的に使いづらいのです。

小関 無印の製品は寸法を変えずに改良されている点も有り難いです。

萩原 それは開発の担当者が代わってもデザインが変わらないための秘訣でもあります。ある時にルールを決めてそのようにしたのですが、立ち上げ段階ではそこまで考えていたわけではありませんでした。

無印の製品は最初、ユーザーの不満を解消する目的で、色柄をやめるくらいの考え方でした。予算も限られており、メーカーが持っている既存の型を生かして製品をつくっていたのです。そのうち、スチールユニットシェルフという名称の収納家具をつくることになり、収納するモノも不具合がないように連動させたほうが良いということでサイズを統一しました。その結果、定番として受け入れられるようになりました。

橋本 すべての製品がきちんと収まり、とても美しく見えます。

萩原 でも、収納用品はつくった分だけ売れてしまうのが困るところです。ボックスのハーフサイズをつくると、これもウケがいい。でもキリがないのです。引き出しも2等分、4等分できると便利ですが、では、何等分までつくればいいのか(笑)。

橋本 とは言え、モノと収納がピタッと合うのは気持ちが良いものです。

ポジティブな家事のために

小関 2010年を過ぎた頃から、依頼をいただく方の7割以上が共働きになりました。片づけができる人は忙しくても片づけられます。一方、片づけが苦手な方は忙しさを理由に崩れていく傾向があります。

私はお子さんのいる家庭では「ワークライフバランス」を、子どもの生活を中心に考えてほしいと願っています。あるお宅で、高校生のお子さんが夕方帰宅しても、またすぐに出かけ、街をふらついているらしいというお話を伺いました。実際お宅を拝見すると、3つある個室はすべて納戸状態。高校生のお子さんには個室がなく、小さな弟たちと母親と同じ部屋で寝ていました。しかし、ご両親はこのお子さんが家にいたくない原因にまったく気づいていませんでした。

親御さんには、住まいが子どもにとって居心地の良い環境かどうかを今一度確認していただきたい。そして「仕事をしていても、子どもの生活を守るためにはどんな工夫が必要か」を考えてほしいと思います。

橋本 同感です。仕事も大事ですが、私は家事も同じくらい大事だと思っています。今は言いにくい時代ではありますが、やはり女性が果たさなければならない役割はあるんです。

小関 そうですね。幼稚園の講演で必ずお話しするのは、「働かないことに負い目を感じないでほしい」ということです。親として家でできることにはとても大きな意味があります。

橋本 そうなんです。稼ぐことも大切ですが、子どもたちと気持ち良く過ごせる片づけや家事を大切にしてほしいと思います。

小関 女性の社会進出には賛成ですが、両親が働くことによって、子どもにしわ寄せが及ばないように気をつけてほしい。地域で子どもを見守ることは大切ですが、やはり子どものことを一番分かっているのは親御さんであってほしいのです。そのためには、夫婦が余裕を持って働ける環境や、慌てず復帰できる育休環境が必要。そしてママ同士でシェアできる仕事があればいいなと思います。

橋本 でも結局、ママたちに負担がかかるのですよね。それを負担と捉えず、積極的に自分の役割だと感じてほしい。家事や子育てをどうして私が、ではなく、“私の仕事”だと思ってほしいです。

小関 そうですね。私は「ワンオペ育児」という言葉に抵抗があります。

萩原 今、共働きの子育てで困るのは、保育園で急に熱が出て迎えに行かなくてはならない時でしょう。結局、ママのほうが犠牲になることが多く、家庭不和の元にもなりますよね。男が積極的に専業主夫を選べれば変わるのかもしれませんが。

小関 私はかつて、子どものことを一番分かっているのは私だという自負や優越感がありました。

橋本 今はそれを否定する社会になってしまっていますよね。

小関 子どもが小さいうちは、と敢えて専業主婦を選んでも、昨今の風潮に居心地の悪さを感じてしまうのは、とても残念。働くママ・専業ママのどちらにも温かい世の中になってなってほしいです。

“使うかも”は使わないモノ

橋本 私は、片づかない根本原因は不要なモノをいつまでもとっておくことだとよく言っています。“断捨離では自分軸で考えなさい”と言われますよね。他人が便利でも、自分には不便ならそれは要らないものです。使う/使わない/今使う/今使わない、これを判断できれば片づけはできます。そして、判断できる教育をしてほしい。学校では今そうしたことを教えません。だから、繰り返しになりますが、片づけを家庭科に採り入れてほしいのです。

家庭科では経済活動も習うので、色々なモノの売買を知る中で買うことだけでなく、要らなくなるモノもあることや、モノは処分して良いということを教えてあげたい。

萩原 今日買ったモノをいつまで残すのかといった使用期限をあらかじめ決めるのも、良いかもしれません。消耗品はともかく耐久財の場合、それがどの期間で役に立つかを考えてから買う。期間が短ければシェアもありでしょう。むやみに買うことも少なくなるのではと思います。

橋本 私はいつも「…かも」と思ったら手放してくださいと言っています。「使うかも」は一旦処分しましょうと。

萩原 わが家には以前、パン焼き器がありました。ブームに乗って買ってしまったのです。またいつか使うかもと思いしばらく置いておきましたが、結局、処分しました。

橋本 家電も今はシェアできるサービスが増えています。わが家でもサブスクのサービスでルンバを試し、使いやすかったので買いました。

小関 シェアは買う前に仕舞う場所を決めておける利点もありますね。

橋本 そうなんです。家電はとくにコンセントの位置で決まるので事前に試せるのはとても大きいです。

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