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【三人閑談】
Jazz Moves On!

2023/07/25

拡張するジャズの未来

中川 服部さんは音楽教育の一環として“セイコーサマージャズキャンプ”というものをやっていらっしゃいますね。これは夏休みの5日間、ニューヨークの一流ジャズミュージシャンを日本に招き、無料で、日本の学生さんを主とした受講生にジャズを教えているのですね。

服部 そうですね。本場の一流のミュージシャンに若手が触れる機会をつくってあげたいという趣旨です。将来音楽に関与しない仕事に就く人でも、ジャズの歴史や文化、背景を学ぶことによって人間の幅も広まりますしね。一流の講師から直接学べるのは励みになると思います。実際にプロが数人出ているのです。

中川 例えば中村海斗君というドラマーのお母さまにこの間お目にかかったら、サマーキャンプに入れることで、海外に留学に行かなくても、本場アメリカの先生たちが来て、様々なジャズの知識を教えてくれたと。

日本だと、どうしても音楽教育も真面目になってしまいがちですが、この先生たちは、ジャズの楽しさを教えてくれる。教育の仕方も日本と違うところがあります。

服部 社会貢献の一環としてやっていますが、音楽というのは、本当に今こそ必要ですよね。

中川 そうなんです。声を大にして言いたいですね。でも学校の授業からは音楽が減らされていたりします。

服部 微力ながら、日本にジャズが広まって、ジャズを通して輪ができて、みんなが笑顔になればいいなと思っています。

中川 そうですね。音楽を一緒にやると、自然に仲良くなりますから。

これからの慶應義塾発の音楽としても、ジャズだけではなく、津軽三味線でも日本一になったSFCの学生の中村滉己君がメジャーデビューしました。今後、どんどんユニークな塾生が出てきて活躍をすると思うんです。

ライトミュージックソサイェティは、クラウドファンディングで自分たちでお金を集めて新作CDを出しました。そして自分たちで今のジャズの最前線にいる挾間美帆さんに作曲を頼みにいったりしている。

そうやって日本で最古の学生ビッグバンドが、一番新しいジャズを生んでいるというコンセプトでCDを出しているのが、ああ、慶應らしいなと思います。

服部 ジャズにはやはり遊び心があります。世の中や人を明るくする音楽は絆を広めてくれるわけです。国境や人種を超えて輪が広がり、1つになるのに音楽は大きな役割を持つのではないでしょうか。

井上 ジャズと言うと、音楽の形式というより、その精神性みたいなところで捉えることが僕らの中では多いですね。

隣接するジャンルをどんどん取り込んで拡張していくのが、ジャズの精神性だと僕らは思っています。自分とは違う文化を取り込みながらも、お互い面白くやっていくみたいなところと、ジャズとは親和性がすごくあるなと思っています。

中川 拡張するシステムをもっているジャズは、だから今でも盛んなのだと思います。50年に1人という才能が、今どんどん若い人たちから出てきていて、楽しみで仕方ありません。

慶應義塾大学でジャズ史を講義して、今思うのは、塾生の優秀さです。期末の課題を読むのが大変楽しみでした(笑)。また、コロナ禍に授業をしてきて今強く実感しているのは、ジャズという音楽がもつ、困難を超えて前に進もうとする生命力です。コロナ禍は、各国がもっていた問題をあぶり出す側面がありましたが、アメリカで起こった「ブラック・ライヴズ・マター運動」にアジアン・ヘイト。そういった事実をSNSなどで見聞きし、履修生たちも驚き、傷ついたようでした。そういった中、授業ではビリー・ホリデイの名唱で知られる『ストレンジ・フルーツ』を聴きました。その涙を溜めた歌声 が、同じ人間を差別する愚かさを歌い上げていました。

ジャズという音楽を生み出して、演奏することで差別に屈しなかったアフリカン・アメリカンの歴史を知ることで、私どももまた人種差別撤廃への思いを強くしました。ジャズを聴き、また演奏することは、差別のない社会への実現に寄与するものだと感じております。

服部 慶應に限らず、今後も若い才能のある人たちを応援していきます。それが私の役割だと思っています。

中川 よろしくお願い致します。井上さんも、ますますご活躍ください。本日はどうも有り難うございました。

(2023年4月20日、慶應義塾大学三田キャンパス内にて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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