三田評論ONLINE

【三人閑談】
ボードゲームを楽しむ

2022/05/25

ボードゲームをつくるとは?

杉浦 島田さんはどのようなものをつくっていきたいと思っていますか。

島田 僕はその人の個性や、何かクリエイティブな面が出るようなゲームが好きなんですよ。

「ディクシット」という絵が描かれたカードを見て、思いついたタイトルを付けるゲームがあります。例えば「悲しい涙」というタイトルを付けたとします。そのタイトルから、他のプレイヤーたちは手持ちのカードから、もっとも関係していると思うカード1枚を選んで出し、語り部がそれをシャッフルして並べます。

語り部以外のプレイヤーは「語り部の選んだカード」と思ったカードに投票するんですが、表現を試し合うようなところがすごく面白い。

杉浦 手掛けられているのもそのようなゲームですか?

島田 はい。仲間とつくった「じゃれ本」というゲームがあります。小学校の時などにやったリレー小説をベースにした遊びです。

まず、4人1組ぐらいでチームになり、最初の人が、例えば「充電できるタコ」みたいな不思議なタイトルを付けて小説の書き出しを書いて隣りの人に渡す。そして、前の人が書いた文を見ながら次の人が書く。でも、その次の人には最初の人が書いた部分が見えないよう、ページをめくってから渡すんです。

1つ前の人の内容だけ見て、こういうストーリーかなと想像して書くのです。上手くつなげていってもいいし、無理やりな展開にしてもよい。

長岡 伝言ゲームのようなものですね。

島田 そうそう。共通するタイトルだけは認識できる。2回りくらいしてストーリーができた後に読み返すと、大体面白いです。これをやると、すごく楽しんでくれるし、徐々にニヤニヤしてくるんですよ。こういう自然と盛り上がってくるものがすごく好きです。ボードゲームカフェでも遊びやすいと思います。

長岡 僕もボードゲームをつくるのですが、岡本吉起さんという、「モンスターストライク」や「ストリートファイター」をつくった方のヒット作の4条件がとても参考になります。まず、「聞いて面白い」。プレゼンを聞いて面白いとか、噂を聞いて面白いとかです。2つ目が「見て面白い」。ビジュアルですよね。そして「実際やって面白い」。最後に「繰り返し遊んでも面白い」。

「じゃれ本」はその4つの条件が全部揃っていると思いました。この4つの条件は意外と守られていないゲームが多い印象があります。国産ゲームはアマチュアが個人でつくることが多いせいか、こういったノウハウが浸透していないのが現状だと考えています。

杉浦 島田さんに以前紹介していただいた「アスタリスク(現MARIMBA)」というゲーム。すごくいいゲームなのですが、量産できないと伺って残念です。

島田 これはプロトタイプで終わっているんです。木でできた6面体のキューブと升みたいなものをボードにはめていくようなモノです。

これは何がしたかったかというと、ボードゲームをつくること自体を遊びにできないかと考えたのですね。このオブジェクトの中でどんなルールがつくれそうか、話しながらつくってしまう。ですから決まったルールはなくて、「その場でルールをつくる」というルールがあるような感じです。

杉浦 すごくいいゲームですよね。キューブとかボードが木製で、それ自体持っているだけでもうれしい。

長岡 楽しそうですね。今、それは買えるのですか。

島田 1個、5万円くらいします(笑)。昔、アートの展示会に出す1点物を木工屋さんにつくってもらったのですごく高かったのです。これを流通させるために結構調べたのですが、今のところ難しく、プロトタイプで終わっているんです。ただ、概念的には面白いので、何か次のステップはないかと思っています。

対面でプレイすることの意味

長岡 お店をやっていると、相席ですごく紳士的な人がたまにいらっしゃいます。ゲームの説明が上手く、清潔で、しかも初心者の方にも配慮ができ、言葉遣いも丁寧。そういった人たちがボードゲームをやっていると、また遊びたくなるんです。

でも、たまにその逆のプレイヤーも残念ながらいます。負け出すと舌打ちし始めたり、悪態をついてブスッとしたり、敗色濃厚になるといきなりゲームをやめてしまう人……。

ボードゲームを元々やっているプレイヤーでマナーの悪い方は意外と少ないです。ビデオゲームやオンラインゲームからボードゲームに参入したプレイヤーでたまにそういった方がいらっしゃるように感じます。

杉浦 オンラインのデジタルゲームだとリセットが簡単にできてしまうところを、リアルな世界に持ち込んでしまうということでしょうか。

長岡 服装などもオンラインだと相手にわからないじゃないですか。過去に、にんにくラーメンを食べた帰りに来られて、お帰りいただいたこともあります(笑)。

杉浦 それはまさにリアルな感じですね(笑)。

島田 公共の場でのコミュニケーションをどう気持ちよくつくれるかということですよね。

長岡 これは訓練だと思います。小さい子供の中には、負けると悔しくて癇癪を起す子がいるじゃないですか。

杉浦 逆に負ける経験がリアルなゲームでできるのはとても大事なことです。ゲームに限らず、外遊びもそうですが、その中でどうやって上手く人とやりとりしていくか。

島田 ルールやマナーが学べるというところですよね。

杉浦 コロナになって授業や会議がオンラインになりましたが、例えばビデオ会議だと、見ているのは切り取られたある場面や音声でしかない。つまり、私たちはそれ以外の情報をあまり感じ取ることなく、その目的のみに集中することができる。

これはいい面でもありますが、リアルに対面している時というのは、服装とか表情、舌打ちとか、本来の目的以外のこともいろいろと情報として感じ取っているわけですよね。

対面でボードゲームをする時は、ルールに則ってやりとりする以上の何かを、私たちは意識しないところで感じ取っているはずです。リレーで小説を書いていくゲームも、その人がどんな表情でそれを手渡したのか。自分が書いている時に、横で他の人は何をやっているのか。そういった情報も常に入ってくる。これはすごく大事なことだなと。

島田 それはデジタルだとなかなか感じづらい部分ですね。ゲームをしながらちょっと違うことを言ったり、何かブラフをかけることもあるし。

長岡 「今、カードを渡す時にちょっとにやけたでしょう」とか、「これ、絶対変なカードでしょ」とか、そういう心理的な駆け引きが面白かったりしますからね。

島田 そういうことも含めての遊びですものね。交渉・対話のあるゲームは、対面しているとさらに面白さが増しますよね。

長岡 「カタン」のオンライン版とかも、ほとんど競技ゲームみたいで、交渉もシステム的になってしまっているところがありますね。

島田 すごく衝撃を受けたゲームがありました。ルールに仕掛けがあって、勝ったと思っていたら、実は負けたことになってしまったりする。また会話は禁止なのでルールをすり合わせることもできない。こんな遊び方があるのかと。

杉浦 自分にとって当たり前だと思っていたことが、実は違っていたというのは、異文化への遭遇のようなことですよね。

島田 僕はゲームをつくる仕事をしてきてよかったなとすごく思っています。今、仕事はワークショップデザインがメインですが、そこではやはりゲームをつくる中で、ルールをつくり、感情の起伏をつくっていくような経験がすごく役立っている。

好きなゲームを楽しむ。そしてそのゲームがどうやってできているのかを知って、自分でつくってみることは人生を豊かにする1つの方法かもしれないと思っています。

(2022年3月14日、三田キャンパスにて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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