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【三人閑談】
ボードゲームを楽しむ

2022/05/25

  • 長岡 裕樹(ながおか ひろき)

    ボードゲームスペース「パイナップルゲームズ田町店」店長。2004年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2019年に港区初のボードゲームスペース「パイナップルゲームズ田町店」を開店。イベント等を通じてボードゲームの楽しさを広めている。

  • 島田 賢一(しまだ けんいち)

    クリエーティブユニット「daitai」ワークショップデザイナー・ゲームデザイナー。2004年慶應義塾大学環境情報学部卒業。2014年に「daitai」を設立。2018年より株式会社グッドパッチに参画。プロジェクトマネージャーを務める。

  • 杉浦 淳吉(すぎうら じゅんきち)

    慶應義塾大学文学部教授。1998年名古屋大学大学院文学研究科博士課程(後期課程)心理学専攻単位取得退学。専門は社会心理学。2020年日本シミュレーション&ゲーミング学会 優秀賞受賞。日本シミュレーション&ゲーミング学会理事。

ボードゲームとの出会い

杉浦 島田さんはどのような経緯でボードゲームのデザインにかかわるようになったのですか?

島田 大学時代、SFCの加藤文俊先生の研究室に在籍していた時、「遊び」をつくることって面白いんだなと思って、卒業後はゲームメーカーのナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)に入ったんです。

そこで「リッジレーサー」というレースゲームや任天堂「Wii」で、家族向けのスキー・スポーツゲームなどのデジタルゲームをつくっていました。

ただ、やはり対面でコミュニケーションが取れる遊びにも魅力を感じていたので、仕事をしながら同じ研究室出身の友人と「JOYPOD」や「daitai」というユニットを立ち上げ、そこでボードゲームをつくったり、ワークショップを開くことを始めたんですね。

そうやって細々とやっている中で、ゲームマーケットと出会い、自分たちがつくったものを出していくような活動を2010年頃から続けています。

長岡 僕は島田さんと慶應では同年卒になりますが、大学時代、奇術愛好会に所属していました。日吉の部室にOBが残した面白いボードゲームがあって、空き時間に皆で遊んでいました。

杉浦 なんというゲームですか。

長岡 「スコットランドヤード」というゲームです。もちろんそれも面白かったのですが、ちょうどその頃カプコン社から「カタン」がリリースされ、日本中で大ヒットしたんですね。渋谷に大きな広告が出たり、新宿コマ劇場で数百人のイベントが行われたりしていました。三田の中庭で遊んでいる人もいましたね。私もそれではまっていって。

杉浦 それでボードゲームカフェをやろうと。

長岡 いきなりではないですよ(笑)。卒業後は就職し、地方を転々としていたのですが、2014年頃、東京に戻ってきて旧友と会った時に、ボードゲームカフェというのがあるから行ってみようという話になり、最近のボードゲームってすごく面白いんだなと知りました。

もともと別の業界での起業を考えていたのですが、諸々の事情で断念することになり、別業種での起業ということで、成長著しいボードゲーム業界への参入を決めました。田町にいい物件が見つかったので、2019年から営業を始めたんです。

ドイツのボードゲーム

杉浦 私の中でゲームが自分の研究に結び付いたのは名古屋大学の大学院に進学した時です。恩師の広瀬幸雄先生が、教育用のゲームを用いて社会心理学の授業をやっておられたんですね。

仮想世界ゲームといって、40人ぐらいで丸1日かけてやるようなゲームもありましたし、トランプの「ダウト」を不法投棄が起こる仕組みを理解するためのゲームに改良したものもありました。カードを廃棄物に見立て、有害廃棄物をこっそり捨てるのか、正直にお金を払って捨てるのかみたいなことをやるんです。

2000年、環境関連の市民活動への参加を契機に、「説得納得ゲーム」というのを自作し、そこからコミュニケーションのゲームを研究していきました。

2004年頃、商学部の吉川肇子先生から、ドイツのミュンヘンで開かれる国際シミュレーション&ゲーミング学会に行こうと誘われました。その時、ミュンヘンのおもちゃ屋さんに連れていってもらったら、壁一面がボードゲームで埋まっている。これには驚きました。

その後も、ドイツに調査に行くたびにおもちゃ売り場に行って、「これって何かに使えそうだ」と買い漁ってきたんです。

長岡 ドイツのボードゲームとの出会いが大きかったのですね。

杉浦 そうですね。ドイツのゲームはまず見た目が素晴らしく、そしてルールがまた素晴らしい。最初は、ルールを自分流に改良し、新しいゲームをつくれないかとも考えていたのですが、ゲームそのものをプレイすること自体、実はものすごく学びになることに気付きました。

学生にそのゲームが表している世界や構造は何か、その背後にあるものは何かを考えてもらうことで、ボードゲームから社会を見る新しい視点を獲得できるとわかったんです。

ボードゲームは定義できるか?

長岡 僕の店には500種類以上のゲームがありますが、ドイツやアメリカのものが多いです。ただフランスもたくさんゲームを出していますし、最近は台湾も増えています。残念ながら日本はすごく後進国です。

島田 ボードゲームと一言で言っても非常に広いというか、すごくいろいろな種類がありますね。ボードを使ったゲームだけではなく、カードゲームもあるし、筆記具を使ってやるものもある。むしろ概念的な用語になっているような気がします。

杉浦 そうですね。ボードゲームとは何かと改めて考えてみると、1つの定義としてはプレイヤー皆が見えている部分があること、これが「ボード」であろうと思うんです。共有できている部分ですね。裏向きに置かれたカードの山も含め、そういうものがボードであると。

だから、実際にボードがなくてもカードを出す場など、そこでプレイしている人たちが共有できている場があればいいのかもしれません。テーブルの上でやっても、壁を伝ってやる双六のようなものがあってもよい。そういう意味ではいろいろなボードが考えられるかなと思います。

島田 西部劇の決闘をテーマにした、ブリトーを投げるゲームもあります。あれはもう机さえもなくて、カードを開いたら「投げつけろ」みたいな指示がある(笑)。

長岡 ボードなんて全然ない。枕投げみたいなものですよね。

島田 だから定義にこだわらなくていいと思うんですよ。でもアナログゲームと言うと何かちょっと違う。「アナログゲーム屋さん」とは言わないですよね?

アナログゲームというとデジタルとは違うんだと、妙な隔絶を感じてしまう。別にボードゲームにデジタルを使ってもいいじゃないですか。実際、そういうものもあります。

長岡 最近だとスマホ連動のゲームとかも存在します。

島田 「ボードゲーム」という表現には何か広さを感じるんですよね。

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