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【三人閑談】
セルフビルド(自力建設)に挑む

2022/03/24

生きのびるためのセルフビルド

青木 現行の建築基準法だと、床面積10以上はすべて建築確認申請が必要で、設計者が工事監理をして完了検査まで受けるのがルールになっています。これもセルフビルドの壁になっているように感じます。例えば、300坪ある田舎の広い土地でわずか20の小屋を自己責任でつくるのに、どうして建築確認申請や設計者の工事監理、完了検査まで必要なのかと。

一方、今、世界的に「ウッドショック」と呼ばれる木材不足が起きていますよね。これはステイホーム中に米国でDIY需要が高まったことに起因するとされています。つまり、欧米では休日に手軽に自分の土地で住宅や小屋やガレージを建てているわけで、法律面での縛りは日本とは随分と違うと思います。

 今は日本も大型のホームセンターが増えて、材料も手に入りやすくなりましたよね。建物をつくるための細かい情報もインターネットで簡単に集まりますし、僕も普段YouTubeを見まくっています。セルフビルドするには本当にいい時代なのにもったいないですよね。

青木 自分が自宅をつくっていたころと比べても、情報量は天と地ほどの差ですね。もちろん、フェイクな情報も多いので注意は必要ですが。

松川 そうやって自分が使うものを自分の手でつくったり直したりできる人は、危機的な状況でも生き残れる確率が高いと思うんです。

ところが、今の日本の社会はそれを半分放棄してしまっているところがある。多様性がない社会は環境の変化で衰える可能性が高い社会でもあります。法律が硬直化しているのも、大きな視野で見ると生存戦略と無関係ではないと感じます。

青木 私も本当にそう思います。

 僕が蟻鱒鳶ルをつくり始めた2005年にちょうど構造計算書偽造問題、いわゆる姉歯事件が起きました。それをきっかけに法規制がすごく厳しくなったんですよね。それまでは国も確認申請を民間に任せる動きがあったのですが、これを境に施工業者や職人の意識もだいぶ変わりました。

青木 あの事件の後、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)ができました。建設会社や工務店に対し、10年間瑕疵保証をするのに財政的な裏付け、つまり担保を付けなさいと。

ところが、品確法は建設会社が建てることを前提とした法律なので、セルフビルドは考慮されていないのです。建設費500万円程度の小さなセルフビルドでさえ品確法が適用されてしまう。もちろん消費者を保護するための法律なのですが、それがかえって気軽に自分の家をつくりたい人たちを縛ってしまっているのが実状です。

松川 岡さんが言うように、今は大きなホームセンターが増え、つくりやすい時代です。インターネットからも多くの人が色々な情報を取得できるようになりました。それなのに法規だけはまだ中央集権的に定められている。建物を建てるための選択肢が少なすぎますよね。

鉄筋コンクリートでつくる理由

松川 ところで岡さんはなぜ三田で、しかも時間と労力がかかる鉄筋コンクリートで建てようとしたのですか。

 もともと高円寺や下北沢のような若者の街が好きだったので最初は三田に抵抗がありました。ビジネス街だし、慶應が近くにあることにも敷居の高さを感じていました。三田に落ち着いたのは、自分たちの財布でどうにか買えそうな土地がたまたまあったからです。利点と言えば、日本建築学会が近くにあることで、色々な知り合いが立ち寄ってくれるところでしょうか。

鉄筋コンクリート造にしたのも深い理由はないのです。鉄筋コンクリートって「RC」(Reinforced Concreteの略)と呼ばれるじゃないですか。高専時代にそれを知った時、ちょうど忌野清志郎さんのRCサクセションが人気だったんですよね(笑)。僕も大ファンで、ある時に鉄筋コンクリートをつくる「RC作製所」という会社をつくったら清志郎と友だちになれるかもしれないと思いついたのです。

松川 たしかに深い理由ではないですね(笑)。でも、土地を買ってRCでつくるという決断と、それをすべて自分でやろうとすることの間には大きな飛躍があると思うんですが。

 一つは現場を経験したことでしょうか。ゼネコンやハウスメーカーの現場で働いてみて、色々なところで職人が結構いい加減な仕事しているのを見てしまったのです。そうすると、とてもじゃないけど彼らには身銭を切れないですよね。

もう一つはダンサーをやっていたことです。とくに僕は舞台上で感じたことを即興で表現することを熱心にやっていました。この方法論はなかなかいいぞと思っていて、同じように建築もできないかと考えたのです。つくりながら自在に造形を変えていけるRCは即興的で、僕にぴったりの素材だと思ったのです。

青木 岡さんは自分の感性と素直に向き合っていますね。やっぱり形が漠然としていても、つくりたい気持ちが原点になければ、セルフビルドはおもしろくならない気がします。

 ずっとつくり続けていると、それまで正解だと思っていたやり方を自分で疑い始めたりするんですよ。試しに別の方法でやってみると意外とうまくいったりして、新しい筋道が見つかることがあります。

例えば、最近コンクリート型枠の内側にビニルを貼ってみると表面が滑らかになるのを発見しました。さらに、コンクリートを打った後、通常数日以内に型枠を外すのですが、それを2、3週間存置したら、仕上がりが良くなったりします。これはコンクリートを風雨に晒さずに寝かせておくとセメントの中でガラス質が生成されるからなんだそうです。学校でも教わらないようなことを発見するのはとてもドキドキします。僕はそれが一番楽しい。

青木 大事なのはこういうものがつくりたいという思いやこだわり、感性ですよね。それがないまま、ハウツーばかりを集めているとセルフビルドの良い面、つまりプロには出せない手づくり感とか、おおらかで自由な発想の造作が生まれない。結果的に下手な大工がつくったようなセルフビルドの家になってしまう。

 セルフビルドをやっている人は世の中にたくさんいると思うんです。山梨県の白州に住んでいる建築関係の友人がいますが、やはり周りには東京から移住して家を建てる人たちが大勢いるそうです。でも半分は失敗するらしいですね。

松川 どうしてですか?

 途中で何もできなくなり、投げ出してしまうそうです。

青木 基礎を打つところから自分で始めた結果、時間がかかってしまい、雨ざらしになった木材が腐ってしまって諦めざるを得なくなる人もたくさんいます。そうならないように、私たちの会社では躯体工事から雨仕舞い、外壁工事までを必ず自社で手がけます。施主には構造や雨漏りに関わらない内部造作工事をお任せしています。

松川 壁・柱・天井ができ上がったスケルトンの状態で引き渡すということですよね。それなら最後までやり遂げられる割合はぐっと高まりますね。

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