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【三人閑談】
魅力溢れるルーマニア

2021/12/24

伝統文化と手つかずの自然

雨宮 ルーマニアに行かれた方は皆さん、ファンになって帰ってこられますね。「ルーマニアは日本の旅行者にとって桃源郷」という言い方もされます。各地方ごとに踊り、音楽、衣装など、大変魅力ある独特な伝統文化がたくさん残っている。人の優しさに加えて、こうした伝統文化も1つの大きな魅力になっていると思います。

私がルーマニア大使在任時代に一番楽しんだのは、自然との触れ合いでした。ルーマニアの国土の真ん中にカルパティア山脈があって、これによって国土が3分され、それぞれ独特の文化が残されている。

この山脈のおかげで、ルーマニアは国としてまとまりにくい部分がありましたが、他方で、オスマン・トルコ、ロシアやハプスブルクなどの外国勢力が拡大しても山脈がそれを阻んでくれた。それによりルーマニア国民は、2000年の歴史を生き抜くことができたのだろうと思います。

川上 ルーマニアは山地や高原が国土の7割ぐらいを占めていて、本当に「手つかずの自然」が残っていますね。カルパティア山脈もそうですし、世界自然遺産のドナウ・デルタもヨーロッパ最大で、ペリカンなど、多くの野生動物がいます。

そして、カルパティア山脈で分断されたそれぞれの地域に、修道院やお城が山の中に佇んでいます。

日本のツアーはブルガリアとセットにされることが多くて慌ただしいのですが、カルパティアを越えるには電車でも時間がかかるんですよ。その車窓からの風景は、山もそうですし、一面に広がる小麦畑、ヒマワリ、真っ赤なポピーなど季節ごとに感動します。首都から1時間も行かないところでも、素晴らしい自然に出会えますので、ゆっくり見てほしいと思います。

雨宮 私としてはカルパティア山脈への登山が一番のお勧めですね。大使館の中に登山部を作って、あちこちの山へずいぶん登りました。

実はルーマニアはヨーロッパの中で最もヒグマの多い国です。でも、ヒグマというのは山の上のほうには行きません。せいぜい1600メートルくらいの森林限界までですから、ケーブルカーに乗って、標高が高いところに行ってしまえば何の心配もなく、大きな空と美しい山の風景を堪能しながら時間を過ごすことができます。

日本ですと、山の上にもいろいろな観光施設がありますが、そんなものはほぼありません。もう大自然がそのまま残っています。はるか向こうを見ると、鳥たちがたくさんいて大変美しい景色です。ルーマニアの宝物は、人の優しさに加えて美しい自然だろうと思います。

ルーマニア略地図

ローマ人の末裔としての誇り

雨宮 ルーマニアというのは「ローマ人の国」という意味です。紀元後2、3世紀頃、ローマ帝国の軍隊がこの地に侵出しました。現地にいたダキア人とローマの兵士たちが混交して今のルーマニア人ができ上がる。そういう歴史から出発しています。

ローマ人の末裔であることは、彼らの誇りなんですね。今のルーマニア国歌は、オスマン・トルコから独立する際、戦意を鼓舞するために使われた戦いの歌で、その歌詞に「私たちの祖先であるローマ人の血が流れていることを忘れるな」「トラヤヌス(ローマの皇帝)こそ、われわれの崇拝する人間だ」とあります。

ルーマニアの人々はある意味で、今でも戦っている。EUの一番東の端で、すぐそこにはロシア、ちょっと行けばイスラム世界がある。いわばEUの最前線にいるわけです。実際、この地域における国際政治や安全保障上の影響力は大きいのです。

川上 国歌は「目覚めよ、ルーマニア人!」というタイトルですものね。

最近は、ITのアウトソーシング、オフショア開発も盛んですね。2007年のEU加盟後、いろいろな製品をEUスタンダードで開発をしてテストできる環境がルーマニアにはあります。ルーマニア人は多言語による開発にも向いているんです。今、東欧初の大型データセンターがつくられているそうです。

雨宮 日本企業にとって、ルーマニアはEU貿易とのゲートウェイですね。ルーマニアに進出して、そこで製品を作ると、EUの中の製品ですから、中で貿易が自由にできてくる。ヨーロッパとの貿易を促進する重要な拠点になっていると思います。

芸術に込められたもの

雨宮 ルーマニアには周辺大国の圧迫を受けてきた歴史があります。その悔しさ、それに対する抵抗の思いを、音楽や文学などの芸術に託しているんですね。自然の美しさと同時に、そういったことがルーマニアの文化の中に結晶しているのだと思います。

古都シビウでは世界3大演劇祭の1つ、シビウ国際演劇祭が毎年開かれています。ここの演劇は大変インパクトがあり、観衆に訴えてくる力がすごいのです。音楽、伝説や民話も含めて、その中にルーマニア人の誇り、悔しさや思いが全部入っていて、それが非常に強く伝わってくるのだろうと思います。

シビウ国際演劇祭には毎年岐阜県高山市から、若い人が20名近くお手伝いに出掛けています。ぜひ古賀市もいかがですか?

田辺 そうなんですね。ちなみに私は高校のときは演劇部だったので、私がまず行こうかなと(笑)。オリンピック・パラリンピックが終わり、次の世代の子どもたちにルーマニアを体感してもらったり、ルーマニアの子どもたちと交流する機会をつくれないかと思っています。

川上 シビウ演劇祭は、1989年の革命から数年後に学生演劇祭から小規模で始まったものですね。今は世界中70カ国以上から集まる、本当に大きなものになりました。日本からはシビウが欧州文化都市に選ばれた年には中村勘三郎さん、また野田秀樹さんなど著名な方も公演されています。

舞台もそうですが、魅力的なのはトランシルヴァニアのドイツ系の街、シビウ全体がアートになることです。工場や教会も劇場になり、広場でサーカスをしたり、大通りでは大道芸やダンスも行われます。そういった場所で日本の盆踊りや、日本の子どもの歌を紹介するのも素敵なのではないかと思いました。

ルーマニアでは、子どもたちがクリスマス聖歌コリンダや新年の歌を、ハロウィンのように家を訪ねながら歌う伝統があります。舞台だけではなく、生活の中で歌を楽しむ。そんな子どもたちによる交流ができたらいいですね。市長のシビウでの演劇もぜひ拝見したいです(笑)。

田辺 古賀市には市民の皆さんがつくる劇団もあります。演劇というのは舞台芸術ではあるのですが、日常生活の中のコミュニケーションにつながるものだと思うのです。まさに私たちの暮らしそのもの、日々の生活そのものが劇性を帯びているはず。そしてそこには人と人とのコミュニケーション、心のつながり合いがあると思うので、今のお話はとても素敵だなと思いました。

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