【三人閑談】
雲を追って
2021/08/16
科学とアートの交わるところ
日野原 今、気象に興味を持っていたり、気象予報士になりたいという学生は増えているんですか。
宮本 そうですね。年々増えていて、環境問題がきっかけという人はすごく多いです。後は、自然エネルギー系と防災ですね。研究室は今大学院を合わせて40人ぐらいいます。
ゼミの開始時に空観察という時間を作っているんです。今、オンラインなので、家の外に出てもらって、それぞれ住んでいる地域の空模様を報告してもらっています。
HABU 気象予報士の人は、写真を撮るとどうしても記録になってしまうんですよね。この間、慶應の卒業生の菊池真以さんという気象予報士の方と対談したんですが、「どうやったらこういう写真を撮れるんですか」と聞くので、考えて撮らないことだと言ったんです。考えるとどうしても余計なことを考えたのが写ってしまう。きれいだなと思ったら撮りなさいと言いましたけれどね。
宮本 われわれは、雲を見た時にまず10種類に分けられる十種雲形というものがあるので、まず何雲かと考えてしまう。また、全天でどれぐらい雲の量があるかという学術的なところにフォーカスしてしまうんです。
でも、パッと見た時に「きれいだな」と思ったものを切り取ってもらって報告してもらうのもよさそうですよね。感覚的なものを養うことにもなりますし。
日野原 先ほどお話しした明治時代の『水彩画之栞』という教科書ですが、そこにも十種雲形という概念が出てくるんですよ。
宮本 そうなんですか。
日野原 明治34年の刊行ですが、「雲の形は十種に分けることができて、こういう雲の形はこういう色を使いなさい」みたいに書いてある。おそらく目に見えたものをスケッチしなければいけないので、感覚的なことだけではなく、学術的、概念的なことも併せて形を記録することが必要だったのかなと。
やはり、芸術的な美しさと科学的なところは決して2つに分断されるものではなくて、それぞれ共通点があり、お互いの関係は深いと思うんですよね。
HABU 雲を30年以上撮っていますけれど本当に飽きないですよ。撮っても撮っても同じことはなくて新しい発見がありますから。一生撮っていけるなと思っています。
宮本 まさに雲というのは科学とアートの交わるところなのかもしれませんね。科学とアートは真逆に思われることも多いのですが、そこを混ぜたほうがいいと思うので、いろいろなことに興味を持っていこうと思っています。
(2021年6月16日、オンラインにより収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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