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【三人閑談】
ミツバチの不思議

2021/06/25

ハチミツの違い

中村 ハチミツについて伺いたいのですが、ニホンミツバチとセイヨウミツバチでは、やはり違うものになるのでしょうか。

藤原 ハチミツの違いは主に採ってくる花の種類によります。セイヨウミツバチの場合は蜜を集める能力が高くて、花ごとに採集することができます。味と色と香りが花ごとにずいぶん違って面白いですよ。

例えば盛岡では、その年初めて採れるのは桜で、その後はリンゴ、トチ、ニセアカシアとかユリノキ、クリという順番でどんどん採っていく。

ニホンミツバチの場合、1年に1~2回の採蜜が多いので、多種の蜜が自然にブレンドされた百花蜜になります。そしてほんの少し酸味が感じられます。

中村 そもそもミツバチが採ってくる蜜の花の種類が違うんですか。

藤原 どちらのミツバチも大体同じ花にはいきますけど、頻度が違うのと、ニホンミツバチは目立たない木々の花をより好む傾向があります。それと、飛ぶ範囲が違いますね。セイヨウミツバチは大体半径2、3キロは飛びますが、ニホンミツバチはそれより狭い範囲です。採れるハチミツの量も少なく貴重です。

ハチミツは巣箱周辺の植物環境が反映されたもの。その風景を想像しながら味わっていただけたら!

真貝 たまたま家にあったので今持ってきましたけど、桜、ニセアカシア、タイムの三種のハチミツです。色が全然違いますでしょう。藤原養蜂場さんのお店に行くといろいろな種類があって並べてみるとすごく色の違いが分かります。当然味も違います。クリのハチミツとか、ソバとかすごく濃い色ですよね。

藤原 ソバなんて真っ黒ですから。

真貝 こういうのをテイスティングしていただくと、皆さんが色も香りも味も「あっ、こんなに違うんだ」と一瞬で、花の違いや自然を感じてくださる。私たちはハニートラップと呼んでいますけれど(笑)。

セイヨウミツバチの巣箱(提供:日本在来種みつばちの会)

各地の養蜂文化

中村 真貝さんのホームページを拝見すると、日本各地の養蜂のやり方というのはずいぶん違うんですね。

真貝 そうですね。ニホンミツバチの養蜂の歴史や養蜂技術の地域差については、知られていないことも多いのでまとめ始めました。

日本と西洋では養蜂の歴史も全然違います。古代エジプトの壁画には養蜂が描かれていますし、聖書の中に「約束の地」として乳と蜜の流れる土地の記述があったり、教会で使うキャンドルにも蜜蠟が使用されていました。日本で養蜂がきちんと行われるようになった資料が多くなるのは江戸時代ぐらいからです。

実際はもう少し前から行われていた可能性はありますし、もちろんそれ以前にも中国などからハチミツや蜜蠟も入っている。平安時代も、地方から中央にハチミツは寄進されているので、各地で採られてはいたようですが、巣箱を置いたいわゆる「養蜂」をどこまでしていたかは分からないところが多いですね。

ニホンミツバチの巣箱は、巣枠が使われる場合もありますが、木の箱がメインなのです。巣自体もちょっとセイヨウミツバチに比べてもろいので、巣箱を頻繁に移動させることが難しいんですね。

なので、地域によっていろいろな巣箱の形があり、木の丸太を利用して中を空洞にしたものから、縦長の巣箱、横長の巣箱、さらに個人の方の工夫が加えられるので、バリエーションが実に豊富なんです。

中村 古座川の伝統養蜂の動画がすごく面白いなと思いました。同じ地域でも人によって使う道具を変えたり、鍛冶屋さんがオーダーメードで道具を作ったりするのですね。

真貝 採蜜の道具1つとってもいろいろですね。採蜜をする時は箱の中の巣板を切り取るための道具が必要になるんですが、養蜂の盛んな地域で鍛冶屋さんが残っていると、そこで「マイ道具」を作ってもらう文化が残っている地域があるんです。

また重箱式というタイプは、巣が伸びるたびに新たな箱を下に追加していき、蜜がたまり次第、だるま落としみたいに上から切っていく、効率良く蜜が採れる巣箱です。最近は重箱式が全国に広がってきました。

「熱殺」という生存の手段

中村 セイヨウミツバチとニホンミツバチを両方飼うのは難しいのではないのですか。

藤原 できればニホンミツバチとセイヨウミツバチは同じ場所に置かないほうがいいです。というのは、梅雨時~秋頃、蜜が少なくなるとセイヨウミツバチがニホンミツバチの巣に入り込んで、蜜を盗むことが多いんです。逆の場合もありますが。

また、ニホンミツバチはオオスズメバチに対しては「熱殺」で防御することができるのですが、セイヨウミツバチはオオスズメバチによって全滅することもしょっちゅうです。セイヨウミツバチの原産地にはオオスズメバチは存在しませんが、ニホンミツバチは昔からオオスズメバチと共に暮らしてきたので、対抗手段を持っているのだと思います。

中村 熱殺というのは、どういうやり方なんですか。

藤原 ニホンミツバチの巣にまず最初に1匹の偵察役のオオスズメバチが来るんです。そして仲間を呼ぶためのフェロモンをミツバチの巣に塗り付ける。この偵察役をやっつけないと、次々とオオスズメバチが来てしまいます。1匹の働き蜂が嚙み殺された次の瞬間、何十匹ものニホンミツバチが一気にその偵察役に飛び付いて団子状になる。1匹1匹が胸の筋肉を振動させることで、48度ぐらいまで温度を上げ、同時に二酸化炭素の濃度も上げて、偵察役のオオスズメバチを殺すんです。

中村 すごいですね。

藤原 日本の研究者が発見したのですが、海外の研究者からも「グレイト!」と言われる有名な行動です。

熱殺は失敗することもあり、その場合は次々にオオスズメバチが来てしまう。そうすると、ニホンミツバチは巣を捨てて逃げます。しかし、セイヨウミツバチは最後まで巣を捨てずに、次々とオオスズメバチに向かっていき、あのすごい顎で嚙み殺されていく。そして巣の中のセイヨウミツバチの幼虫や蛹を全部持っていかれて全滅です。スズメバチ類は幼虫が肉食。だから親はミツバチをはじめ、いろいろな虫を捕るのです。

中村 逆に熱殺ができたから、ニホンミツバチとオオスズメバチは共生できたのですね。

藤原 そうでしょうね。それと逃げるという性質もあるので。

スズメバチはミツバチを飼っている人間からすると、憎らしい敵なんですが、実は自然界で大きな役割を担っています。クロスズメバチでの面白い調査があり、巣の出入りを観察したら、たった1時間で227匹ものハエを持って入ったそうです。もしスズメバチ類がいなかったら害虫類が多くなって、もしかしたら花も咲かなくなるかもしれない。スズメバチも間接的に、ミツバチが生きていくための役に立っているのかもしれません。

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