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【三人閑談】
万年筆の愉しみ

2021/01/25

名品・パーカー75

山縣 宮原さんも海外の製品も含めて色々とご覧になっていると思いますが、良い万年筆とは、どういうものでしょうか。

宮原 私にとっていい筆記具の条件とは「直せること」だと思っているんです。その意味で理想的なのは〈パーカー75〉です。

私が入社したころはまだ、輸入ブランドでもパーツ単位で豊富に供給が受けられていました。日本橋店の筆記具売り場の引き出しにはブランドごとに部品が沢山入っていて、「キャップが緩くなって困っている」というお客様に、その場で必要な部分だけ交換して店頭で修理できていたんです。

〈パーカー75〉はキャップを締めたときにカチッと音を出すクラッチが内側に付いていました。これが使っているうちに次第に緩んでくるのですがパーツさえあればその場で修理できた。

ところが今は大抵、修理ではなくまるごと交換ですし、一旦お預かりして工場などで見てもらわなければならなくなってしまいました。

山縣 私が最初に手にした万年筆がまさに〈パーカー75〉でした。あのシズレスターリングシルバーの。中学生の頃です。たしか進学祝いにソニーにいた叔父からもらった。アメリカ出張で買ってきてくれたのではなかったかな。

ただ、〈パーカー75〉と後継の〈ソネット〉では一見デザインは似ていますが、ペン先の形状がずいぶん違いますよね。昔のもののほうが断然いいと思うんですが、もうパーカーではつくらないのでしょうか。

宮原 〈パーカー75〉のファンという方は根強くいらっしゃいますね。あのペンはグリップの断面が三角形になっていてにぎりやすくできており、ペン先を回してペン先の向きを調整できる機構が優れていました。ペン先がグリップの正面を向くようにクルクルと回せたのですね。使う人にフィットする部分にオーダースーツのような心地よさがあり、非常に高い完成度を誇っていたと思います。

後継シリーズの〈ソネット〉はペン先が固定されてしまっているのが少々残念ですね。パーカー輸入元の方にお会いするたびに〈パーカー75〉を「復刻しませんか?」と持ちかけるのですが、本社の認可のハードルは思いのほか高いようです。

でも熱意はいつか通じると信じて、訴え続けたいと思っています(笑)。

中田 そのあたりがハードウェアの面白さであり、難しさでもありますね。とくに万年筆はユーザー1人1人の使い勝手が違うので微妙なところで好みが分かれます。

〈パーカー75〉のペン先の機構も中屋で実現できないかと、そわそわしながら聞いていました(笑)。

山縣 しかし、こういう話は尽きませんね。

中田 なにせ慶應はペンの徽章ですからね(笑)。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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