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【三人閑談】
みんながヒーロー サイボーグ009

2020/12/11

9人の個性という多様性

木下 今の特撮、アニメは、いかに親、特にお母さんを取り込むかというところがポイントですよね。『仮面ライダー』やスーパー戦隊とかもイケメンの男の子が活躍していて。

切通 『仮面ライダー』はまさに石ノ森先生の原作だし、亡くなった後もどこか引き継いでいるものはあると思いますね。『仮面ライダー アギト』なんかは完全に「神々との闘い」がモチーフになっていたし、漫画の『仮面ライダーSPIRITS』も「ベトナム戦争編」を思わせるような要素がある。

チームで戦うという『009』の発想は『ゴレンジャー』的なもののひな形になっているし、そういう点でも非常に新しくて、今も引き継がれているところがあるんじゃないですかね。

木下 9人というのは野球が頭にあったらしいですね。「皆で協力して戦う」という考え方は、私も『009』で教わったようなところがあります。

切通 私がすごく好きなのは、1つのエピソードが終わると、いったんメンバーがバラバラになるじゃないですか。それぞれの国に帰って、それぞれの生活をしている。それでまた、何かがあると集まってくる。あれが感情移入できるんですよ。

それぞれの背景を持っていても、いつも一緒に行動しているのだったら、結局、背景は最初に紹介されて終わりになってしまうと思いますけど、戦いが終わるたびにいったん自分の故郷に戻る。でもそこで受け入れられなかったとか、恋人ができたけれど上手くいかなかったとか、いろいろあって、それでまた集結する。

戦っている間、やっぱりこの仲間たちしか、本当の意味での運命を分かち合えないんだなというのが逆に、ある種の温かみとして何か伝わってくる。あれがいいんじゃないですか。

大越 これほど主要キャラクターの能力がバラけていて、多様で、補完し合うようなチーム戦のアニメはない気がするんです。

今、大学で学生を教えていますが、学生の得意なところは1人1人バラバラです。われわれはそこをいかに伸ばすかに注力する。平均点の学生が育つよりは、特異なスキルがある学生の芽を伸ばしてあげることが役割だと思っています。

ですので、多様性、ダイバーシティというキーワードと絡めても、「009」は非常に新しいし、今の時代に合っているなと思いますね。

木下 それを50年以上も前に作品として仕上げたというところがやっぱりすごいなと。

切通 世界中から人種にかかわらずキャラクターを集めたということと、もう1つ、誰に何の能力を振るのかがすごく上手いですよね。長年続いているものって、普通、だんだんその設定が変わっていったりするのですが、それがほとんどない。

初期の属性そのままで、しかもそれがドラマの中でちゃんと生きている。003は目と耳を強化されたサイボーグですが、もう完全に何が起きるのか予知しているという勘の鋭さがあって、すごく全体に生きている。そういうものって珍しいんじゃないですかね。

大越 そのくせ主人公は加速装置と「あとは勇気だけだ!」と言う。そこの、意外とシンプルなところが面白いですね。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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