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【三人閑談】
みんながヒーロー サイボーグ009

2020/12/11

『ナウシカ』との類似

切通 「天使編」中断後、雑誌『COM』で「神々との闘い編」を連載しています(1969~70年)。ある号は『火の鳥』が巻頭で、その次に『009』があるんですけど、4、5ページで終わってしまうんです。しかもストーリーを描いているのではなくて、心象風景みたいなもののスケッチで、終わりに、「次の号は『トキワ荘物語』を描くために休載します」と書いてある。何かこの時期は、終わらせたいのか、終わらせたくないのか分からないみたいな感じがちょっとするんですね。

あらためて「天使編」を読み返して驚いたのが、先ほども例に出しましたが『ナウシカ』の原作の終わりと通じるものがあることです。人間というものが過ちを犯す存在だから全部滅ぼしリセットして、新しい人間を生み出すという神の正義に遭遇するという展開は、『ナウシカ』の原作とまったく同じです。

神的な存在に対してナウシカがノーを突きつけるという『ナウシカ』のあの終わり方は、当時、いろいろな識者から「宮崎駿はすごい」と言われたのだけれど、もうとっくに『009』がやっているんだなと。

木下 石ノ森先生って、すごくいろいろなことを考えて、いろいろなことをやりたがる先生なんですね。だから、いろいろな分野にわたる作品がある。「これは面白そう」といってガーッと盛り上がって描いて、ものによっては、きちんと結末をつけていない作品も多い。途中で他にやりたいものに興味が移ってしまうところもあったようです(笑)。

あれだけ忙しいのに、睡眠時間を削って映画も見て、本も読んで、お酒も飲んで、タバコも吸って、ゴルフも行って、ファンが行っても歓迎してくれました。正月の2日には先生の家にファンが遊びに行っていたんですよ。

先生の中では、たぶん一度「ヨミ編」(1967年)で終わっているんですよね。「それ以外は認めない」というファンの人もいますし、私もあれが一番の名作だなと思います。

ファンがやめちゃ嫌だと猛抗議して再開したんですが、たぶん先生自身も別の形で描くと、どんな作品になるんだろうと思って描いてみたら、延々続いてしまったんだと思うんです。

女性ファンの心を摑む

木下 ファンクラブの会員は圧倒的に女性が多いんです。たぶん男性も好きな方はたくさんいらっしゃると思うんですが、男性は、どちらかというと自分の中で思いを昇華しちゃうようですね。

大越 なるほど。フェイスブックにこのコンソーシアムのことを出しますと、50代、60代の、やはり女性の方の反応が多いですね。

女性はどのキャラクターが一番好きなんでしょうか。

木下 一番は島村ジョーだと思います。石ノ森先生の描く島村ジョーって何か色気があるんですよ。カラー版のアニメシリーズのオープニングでは009が涙を流すんですね。ヒーローもので涙を流す主人公なんて普通いない。そういうところにたぶん女性はグッと心を摑まれる。

切通 第2シリーズのオープニングですね。ほかのメンバーはオープニングで特技を披露する。でもジョーは泣いてるんですよね。あれは当時、話題になりましたよね。

木下 あれに結構、女性ファンは心を摑まれましたね(笑)。また、その時の声優さんは、当時はまだ駆け出しで、甘い声で。

『009』って、アニメ化するたびに声優さんが代わるのも珍しい。こんなに声優さんが代わった作品も、キャラクターデザインが変わった作品もないんじゃないかと思います。

切通 確かにそうですね。

大越 絵柄も声も全部変わるのだけれど、全部『009』なんですね。

切通 石ノ森先生の原作の絵がだんだん流麗な島村ジョーになっていくじゃないですか。それがすごくしっくりくるんですよね。初期ももちろんいいんですが。

木下 いかにも少年漫画という。

切通 そう、いかにも少年漫画的なよさはあるけれども、そのなかに潜在的にキャッチしているものがより繊細な形で石ノ森先生の中で昇華されていって、それが具現化されているような感じがしますよね。

木下 これは男の子向けの漫画、アニメだったわけですが、これだけ女性にも人気が出てしまった。今でこそ『少年ジャンプ』の人気漫画が女の子に人気で大ヒットする作品はたくさんありますけど、たぶんその先駆者だったんだと思いますね。

「リブート」という展開

大越 先生が亡くなって一応完結編も出てからリブート(再起動)がまた始まるわけですよね。漫画の連載もまた始まっていって。

木下 そうなんです。とんでもない作品です。ちょうど『RE:CYBORG』(2012年、神山健治監督)の映画をやった時に、監督にインタビューをさせていただく機会があったんです。その時、「企業とコラボ、やってるんですね」と言ったら、企業のそこそこ決定権を持つ年齢の人に『009』が好きな人が多くて、話を持っていくと、すんなりOKをもらえるとおっしゃってました。

子供の頃に見た『009』が好きで記憶に残っているんだなと思いましたね。

大越 まさに今回の健康情報コンソーシアムの企画もそこが狙いなんです。当時子供や学生だった方が今、40代から60代で、家庭をお持ちだと、そこから広げられますよね。

子供の時にヒーローだったキャラクターが今も現役でいるということは、他にあまり例がないなと思いまして。例えば『ガンダム』のアムロ・レイも、今も現役で描かれているわけではないですし。

木下 『ガンダム』はガンダムというロボット(モビルスーツ)はあるのですが、世代も話も変わっていって年代記になり、アムロの下の世代たちの話ですものね。それに引き替え、サイボーグは歳を取らないので。

切通 そう、001はいつまでも赤ちゃんですからね。

木下 だから、だんだん新作をつくるにつれて、004のベルリンの壁の扱いをどうしようかと、スタッフの方々は苦労されていた。2001年のテレビ『サイボーグ009 THE CYBORG SOLDIER』ではコールドスリープしていたことにするという、なかなか難しいことをやっていました。ベルリンの壁なんて、今の子たちは知らないし。

切通 この企画検討中、「現代版の004はベルリンの壁はいらないよね?」という問いかけに、「ベルリンの壁がないと、004じゃないですよ」といったやりとりがあったと聞いたことがあります。

いざふたを開けてみたら、004までは冷戦初期の古い時代の改造なんです。だから実際にベルリンの壁でケガをして、サイボーグになる。でも時代が早すぎたので、全員コールドスリープにしてしまって、そのあと30年ぐらいたって、005以降が第2世代としてつくられたという驚きの設定。

だから、003と009は実は30歳ぐらい違う(笑)。コールドスリープして時代を超えるというのは、なかなかすごい発想でした。

木下 でも最大の謎は、ギルモア博士はいったい何歳なんだと(笑)。

切通 リアルに考えると、ギルモア博士は途中で死んじゃいますよね。

木下 だから、実はギルモア博士もサイボーグじゃないかと言われました(笑)。

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