三田評論ONLINE

【三人閑談】
折り紙の愉しみ

2018/05/01

遊びながら学ぶ文化

ルーベン 今年は戌年ですよね。だから、仕事関係の人に折り紙で犬を折ってあげようとしたんです。それでいろいろなウェブサイトを見てみたら、動物の折り紙ってすごくたくさん種類がありますね。動物ならなんでもあるっていうくらい。

橋本 動物はなんでもあるし、虫とかも平面的なものから立体的なものまでいろいろあります。カタツムリなんかも、殻のところが膨らむようにつくれるようなものもある。よくそういうものをつくるなあと感心しますよ。

ウサギも、平面のものもあれば、風船を変形させてつくるものがありますね。

山口 おそらく昔からの伝承で、みんなが伝え合ってきたという流れがあったからこそ、いろいろな折り方が発展してきたんだと思います。

橋本 日本では折り紙がいつからあるのか。あまり詳しくないですが、平安時代からあったという話も聞いたことがあります。江戸時代の日本で折り紙が普及したのは寺子屋があったからだとも聞いたことがあります。

でも、江戸時代の折り紙の簡単な本ってあまり見ないですよね。例えば北斎漫画みたいなものは今でも伝わっていますが、あれに当たるようなものが、折り紙にあってもおかしくない。

山口 当時の人たちは、折り方を極めるほうに行ってしまって、あまり一般的な普及ということは考えていなかったのでしょうかね。

橋本 そうかもね。

山口 だって、人に見せたいから技を競い合うじゃないですか。そうすると、子ども向けのほうには目が向かなくなる。だから、私の仕事が成り立つわけですが(笑)。

でも、1番簡単なもので、誰でもできるようなものが伝承されていくこと、それこそが文化だと思いますね。ひと昔前には普通に家庭とか地域でみんなやっていたわけだし。

橋本 でも、子どもに教える道具としてこういうものがあるっていうのは、やっぱりなかなかすごいですよね。

山口 とにかく安く遊べますからね。最新のゲーム機を買う値段で、いい折り紙を何枚買えるか(笑)。

橋本 たしかにそうですね。

山口 遊びながら学ぶなかで、数学に関する感覚も身につけていけるんじゃないかと思います。ちゃんと折れれば、三角形であれ、他の図形であれ、いろいろなものを組み合わせていけることが分かっていくと思います。

自然に伝承されていくもの

橋本 折り紙には基本、ハサミはいれませんね。

山口 使わないですね。ただ、折り紙を基本にした「切り紙」というのがありますね。「江戸切り絵」といって、折り紙を切って、いろいろな花とかそういうのをつくるんですね。一種のルールなんですね。切らないということを前提に折るというのもあるし、切ってもいいというのもあるけれど。いろいろな制約の中で折る。

例えば、正方形で折らないといけないとか、長方形も拡大していいとかいろいろあるわけですよ。その制約があって初めていろいろな工夫が生まれて面白いんですよね。

橋本 折り紙って、形式ばってしっかり普及させようとか言って肩に力入れてやるものじゃなく、自然にいつまでもなくならずに続いていく、という不思議なものじゃないかと思うんです。

こういうのが苦手な人もいますけど、好きな人だと結構楽しめます。メソッドとしてしっかり伝えようとかって言い出すと、だんだん嫌になっちゃうかもしれません。

山口 そう。義務になると、嫌になってしまうんです。

橋本 本当に寺子屋的なものがふさわしいんだと思います。

山口 折り紙を見ていて日本人の器用さを感じますか?

ルーベン 紙の美しさも含めて、やはりすごく印象的ですよね。

山口 楽しみながらつくって、学ぶという文化があると思います。日本の幼児教育や初等教育にはもともとそういう寺子屋的なものがあって、それがのちに西洋化して、詰め込み教育があったりもしました。

今また戻ってきていますが、連綿とした伝承文化は、そもそも子どもを大事にしてきたものだと思います。そういうものはこれからも大事にしていきたいですね。

ルーベン 僕も娘が昨年生まれたので、一緒に折り紙ができるようになるのが楽しみです。

橋本 いいですね。娘さんが保育園で教わってきたら、「パパはもっとすごいのが折れるぞ」って自慢してあげてください(笑)。


※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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