三田評論ONLINE

【三人閑談】
折り紙の愉しみ

2018/05/01

コミュニケーションの道具として

橋本 僕が折り紙で自分の役に立ったのは、NHKの記者になったときです。もう40年以上も前のことですが。

NHKで福岡に赴任して、最初は警察署回りをするんです。昼間に行ってもなかなか話を聞かせてくれないので、知り合いになったおまわりさんの家に夜に行くんです。いわゆる夜回りですね。

普通はおまわりさんと酒を飲みながら、相手が酔っ払ったときにいろいろ聞き出すんですが、自分はお酒が全然駄目。だから、お子さんのいるようなおうちを狙って行って、それで子どもに折り紙をつくってあげるようにしたんです。

するとお子さんが喜んでくれて、だんだん仲良くなる。そのおまわりさんが家に帰っていないときでも、訪ねて行くと、子どもが出て来て、「ああ、折り紙のお兄ちゃんだ」と。それは結構仕事で役に立ちましたね。

それから、知事のときはそれこそお年寄りの介護施設などに行って、「一緒にやりましょう」とやると、喜んでくれました。もちろん外国の方へのお土産でも渡しました。

山口 折り紙って、人と人とをつなげるんですよね。

橋本 そう。結びつける。ただ、折り紙をちゃんと折るのは結構時間がかかります。子どもやお年寄りに「これどうやって折るのか教えて」って言われても、そう簡単には教えられない。子どもだと、すごく大ざっぱに折る子もいるので、最初の折り方だけでもう駄目(笑)、最後まで行き着かないなと思うこともある。

その辺も含めて、コミュニケーションのツールとしてなかなか楽しいですね。簡単ではないけれど。

ルーベン 以前、富山でJETプログラム(The Japan Exchange and Teaching Programme:語学指導等を行う外国青年招致事業)の教師をしていたときは、結構折り紙を使いました。

小学生と保育園で教えていて、ニュージーランドの鳥、キウイを折ってみせました。とても簡単なやつです(折ってみせる)。

ルーベンさんが折ったキウイ

橋本 これはすぐにできていいですね(笑)。特に子どもたちを相手にするなら、折り紙は、簡単なものじゃないとね。時間がかかったり、面倒だったりすると、やっぱり子どもたちは飽きちゃうので。このキウイは、どこで習ったんですか。

ルーベン たしか、保育園と小学校の授業のために、ニュージーランドっぽいものをつくりたかったので、自分で作り方を調べたんだと思います。久しぶりだったんでできるかなと思いました。

橋本 しばらく折っていないとできなくなったりしますからね。

ルーベン 実は僕はオランダ人なのに長崎にはまだ行ったことがないんです。以前、JETの夏休みのときに、千羽鶴みたいなかたちでキウイを折って、平和公園に持って行こうと思ったんです。

橋本 すごいね。千羽キウイだ(笑)。

ルーベン それで700羽くらいまでがんばって折ったのですが、結局いろいろな用事が重なり、行けなかった。それで学校に寄付しました。

山口 それは、1人で全部つくったんですか。

ルーベン そうです。JETのときは、夏はとても暇だったので、いい暇つぶしになりました(笑)。

山口 700個折っていれば絶対に忘れないでしょう(笑)。

橋本 日本の子どもたちの反応はどうでしたか。

ルーベン つくった後、本当のキウイの写真を見せたら、最初は「えーっ、変な鳥。これなあに?」ってびっくりしていました。

ルーベンさんの「千羽キウイ」

YouTubeで学ぶ

山口 折り紙の本に載っていたりするのは、出来上がりがいいものが多いですね。あれは子どもにはちょっと難しいし、大人にだって難しい。最初折るときは、やっぱり簡単な定番が必要で、そういうものがいくつか自分のレパートリーに持っているといいですよね。

ルーベン 小学生のとき、ホームステイの生徒が帰ってしまった後、日本語の折り紙の本を探して見てみましたが、やはりちょっと難しかったですね。

橋本 折り紙の本自体、分かりやすいものと分かりにくいものがあって、それこそ「谷折り」「山折り」の区別もよく分からなかったりする。

ルーベン 折って開いて、また組み合わせる、みたいなタイプの折り紙は苦手でした。

橋本 難しいですよね。折って筋目を付けて、その筋目に合わせて開くというのが、うまく説明できていなかったりします。

ルーベン 最近の本は、だいぶ分かりやすいものが増えているように思います。

山口 そうですね。あと今はインターネットのYouTubeでいろいろな折り紙の折り方がアップされていますから、より分かりやすくなっていますね。

教え合う関係をつくる

山口さんの多面体

山口 この多面体は部品が12個必要で、早い学生は10分くらいでつくれる。私は不器用なので20分ぐらいかかる(笑)。

橋本 それ、最後の1つがきれいに嵌らないんだよね。

山口 そう。抜けちゃったりね。結構難しい。だから、器用さっていうのはやっぱり重要ですよ。

橋本 これは3個でもつくれるし、12個でも、36個でもつくれますね。

山口 こういうのを学生とやっていると、学生の側が教えてくれたりするんです。

「先生、こんなのできるよ」って言って、持って来る。それを僕が学んで、また他の学生に広めたりしています。

つまり、ただ一方的に教える・教わる関係じゃなくて、教え合う関係になれる。これってすごく大事ですよね。

橋本 まさに、福澤先生のいう半学半教ですね。

山口 そうですね。そういう関係がつくれると、授業はすごく良くなります。

橋本 こういう、ユニットを組み合わせてつくっていくというのはなかなか楽しいし、出来上がりもきれいだからいいですよね。暇つぶしにもなるし(笑)。

ルーベン ニュージーランドでは12月、クリスマスツリーを飾るんですが、僕はツリーに折り紙も飾りましたよ。しかも、そのクリスマスツリーも盆栽のツリーで。

橋本 盆栽に折り紙、なかなか素敵ですねえ。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事