【三人閑談】
折り紙の愉しみ
2018/05/01
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山口 榮一(やまぐち えいいち)
玉川大学名誉教授、SKIP算数教育研究会主宰。1979年慶應義塾大学大学院社会学研究科教育学専攻博士課程修了。専門は教育プログラムの研究・開発・評価など。著書に『おりがみで学ぶ図形パズル』ほか。
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バンマンサム、ルーベン
慶應義塾大学国際連携推進室専門員。オランダ生まれ、ニュージーランド育ち。小学校時代、毎年ホームステイで来る日本人の短期留学生のお土産だった折り紙と出合う。大学で日本語と美術史を、大学院で近代日本美術史を専攻。2014年より現職。
折り紙との関わり
橋本 私は十数年前に『折り紙の四季』という本を出しましたが、実は折り紙についてはそんなに詳しいわけじゃないんです。高知県知事時代に、手慰みというか、暇つぶしで折り紙をやっているという話をしていたら、「ぜひ出してくれ」と出版社からせがまれまして(笑)。
母方の祖母がお手玉やあやとり、折り紙が好きで、子どもの頃一緒に住んでいた時期もあるので、いろいろと教えてもらっていて、なんとなく楽しいと思ったんですね。
あまり外で遊ぶ子じゃなかったのと、幼稚園・小学校から私立に通っていたので、地域の仲間とのつながりがない子どもでした。あと、兄も10歳離れていたので、一緒に遊ぶということもなくて、いろいろな1人遊びをしていました。それで時間つぶしにやっていたというのがきっかけですね。
山口 おばあさんから教わったわけですね。
橋本 ええ。山口さんも折り紙に関するご本を出していらっしゃいますね。
山口 私は、小学校教育の教員養成に35年関わっていました。学生たちは、算数を教える先生になろうとしているのに、算数が嫌いっていうか苦手なんです。
学生によっては、「算数ができないからここに来たのに、どうして算数をやらなきゃならないの?」なんてことを言う(笑)。そこで、「サッカー嫌いな人がサッカー選手のコーチにはなれないでしょう? だから、まず好きになるのが大事だ」って言ったんですが、じゃあ、どうしたらいいかと考えたとき、折り紙に出合ったんです。
慶應の友人が、たまたまモンテッソーリ教育に関わっていました。将棋の藤井聡太さんでも有名になった、イタリア発の教育法です。
その教育法では、感覚教材というものがあって、三角形とか丸とか、かたちを触ったりします。でもそのモンテッソーリ教材はとても高価です。
そこで、折り紙で同じようなことができるんじゃないかと思いました。なにかをつくるというよりは、折り紙という正方形がもっている幾何学的な要素をいろいろ使って教えていこうと思ったんです。
橋本 学生さんの反応はどうでしたか。
山口 やっぱり学生たちは折り紙は好きですね。特に、いまは幼児保育課程を担当しているのでなおさらです。いかにも算数っていう感じじゃなくなりますから。
例えば、「折り紙を半分に折って」と言われたとき、対角線で三角形に折る人と、縦か横の長方形に折る人がいますね。だけど、半分に折る方法は他にもある、って言うわけです。そこから難しくなる。
橋本 なるほどね。
山口 つまり、折り線が正方形の中心を通ってさえいれば、ぴったり角を合わせた折り方じゃなくても、必ず半分に折れるんです。
こういったことだけでも、学生たちは結構興味を持ってくれるんです。特に保育園や幼稚園の先生になる人には、「折り紙」は必ず必要となるものなんですよ。
日本の高校生に折り紙を学ぶ
ルーベン 私はオランダ人で、小さなときにニュージーランドに住んでいました。両親とも高校の先生で、いろいろな言語を教えていました。
8歳くらいのとき、母が同僚の日本語の先生から、日本人の高校生をホームステイに受け入れるよう頼まれました。そして、その高校生から日本のおもちゃをたくさんもらったんです。そのなかで特に引かれたのは、けん玉と折り紙でした。
その次の年も同じホームステイのプログラムがあって、必ず折り紙をもらっていました。
橋本 その人は、折り紙を持ってきて、自分で折ってくれたんですか。
ルーベン ええ、そうです。折り紙のパッケージの最後に、図形の説明をした紙が入っていますよね。あれに書いてあるものを折ってくれました。
その生徒たちは英語が得意じゃなかったので、折り紙の遊びで仲良くなりました。
橋本 最初、折り紙って難しくなかったですか?
ルーベン うーん、そんなでもなかったです。たぶん僕は手先が器用だったんですね(笑)。兄は上手くできませんでした。
たしかに、他の友達も誰も折り紙はできなかったです。だから、自分にとってはちょっとした特技だったのかもしれません。
山口 最初に折ったものは覚えていますか。
ルーベン たぶんウサギとか、ツルですね。ツルが最初からうまく折れたかどうかは覚えていませんが。
橋本 折り紙ができて、何か役に立ったことはありますか。
ルーベン 例えば中学生のとき、理科の授業で、紙で花の模型をつくりましょうという課題がありました。それは結構うまくできましたね。
あと、母がお寿司をつくるのが好きだったんです。ニュージーランドではポットラック(持ち寄りパーティ)をよくやります。みんなで1皿ずつ料理を持ち寄るんですが、母がお寿司をつくって、それを僕が折り紙で飾りつけました。
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橋本 大二郎(はしもと だいじろう)
1970年慶應義塾大学経済学部、72年同法学部法律学科卒業。NHK報道部記者、社会部。デスク等を経て91年~2007年まで高知県知事。現在テレビ朝日「ワイドスクランブル」キャスター。編著書に『折り紙の四季』がある。