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【三人閑談】
"縄文"再訪

2018/04/01

  • 室井 光広(むろい みつひろ)

    作家。

    1980年慶應義塾大学文学部卒業。2006〜12年まで東海大学文学部文芸創作学科で専任教員を務める。『おどるでく』で第111回芥川賞(1994年)受賞。著書に『縄文の記憶』など多数。
  • 小林 武人(こばやし たけと)

    ポストデジタルアーティスト、NPO法人JOMONISM代表。

    2001年慶應義塾大学環境情報学部卒業。東京工科大学クリエイティブ・ラボ、株式会社ゴンゾを経てフリーランスに。

  • 安達 香織(あだち かおり)

    横浜市教育委員会埋蔵文化財専門職員。

    2014年慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。博士(史学)。大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所研究員等を経て本年4月より現職。著書に『縄紋土器の系統学』。

「縄文ブーム」再燃の兆し

室井 近年、再び縄文文化への関心が高まっていて、さまざまな展覧会やイベントが開かれているようですが、小林さんが縄文に関心を持たれたのは、どんなきっかけからでしたか。

小林 僕は以前アニメの制作会社にいて、そのとき一緒に仕事をしていたディレクターがすごく縄文が好きだったんです。僕もコンピュータグラフィックスを使うのですが、形をつくるのが仕事なので、純粋に「土器、格好いいな」というところから入りました。なのでアカデミックなきっかけではないんです。

興味深いところとして、小林達雄先生の本などを読んでいると、縄文では1万年以上、自然と共生して文化が続いていて、その中でほとんど戦争の跡が見つかっていないという話がありますね。

室井 そうですね。他国のように、異民族が新しい文化を持ってきて、それまでいた先住民を滅ぼしてしまうといったことがほとんどなかったのが縄文、弥生、そして古墳時代ですね。

つまり、奈良時代以前の長い時代の中で、それまでに成熟していたところに外来のものを取り込んで、それを自分たちの独自のものにしてしまう、というパターンが成立したのではないか。

小林 弥生からずっと現代まで、ピラミッド型の経済・社会システムになっているわけですが、いま日本にすごく閉塞感があるなかで、自分たちのアイデンティティをどこに求めたらいいかと考えたとき、縄文は1万2,3000年続いていて、そのあとの時代の4〜5倍ぐらい長い。そういう時代から学べることもあるのではと思って、今、JOMONISMというNPO法人をつくり、活動しています。

あまり難しい話を言っても一般の人にはなかなか受け入れてもらえないので、音楽フェスティバルやアートといったものと絡めて活動しています。

小林さんが水煙紋土器(山梨県釈迦堂遺跡出土)の3D スキャンデータを使って制作した作品「Quantum Reality ─量子現実─」

室井 大変ユニークですね。安達さんは考古学の専門家ですが、実際に発掘もされているのですか。

安達 はい、毎日外に出て、京都府内の遺跡を朝から夕方まで発掘していました。

私は小さい頃から家族旅行で遺跡に連れて行ってもらっていて、博物館に行くのも大好きでした。そこから遺跡に興味をもったのですが、ちょうど小・中学生くらいの頃に青森県の三内丸山遺跡の発掘・保存・公開活動が盛り上がりを見せていました。

実際に三内丸山に行ってみますと、縄文時代の網かご(ポシェット)の中に木の実が入っていたのが展示されていました。このかごはどうやって編んだのだろうと、虜になりました。その展示の前に、親が心配するくらい長い時間いたそうです(笑)。

ものを見ること、人がつくったものを見るのが好きだったこともあり、ものから過去の人の生活をひもとく考古学を学ぼうと思いました。日本考古学の第一人者、鈴木公雄先生がいらっしゃるところでぜひ学びたいと思って慶應に入りました。

小林 今年は東京国立博物館で特別展「縄文─1万年の美の鼓動」の展示もありますね。

安達 そうなのです。2001年の「土器の造形─縄文の動・弥生の静─」以来、久しぶりの縄文の特別展が開催されることになっています。

2001年前後から縄文人気は少し下火になったところがありますが、またちょっとブームになっているのかもしれません。

小林 そういういいセレクションのものが見られるのは素晴らしいので、縄文は今ちょっと「来ている」かなと思います。

あと、望月昭秀さんという人が『縄文Z I N E 』というフリーペーパーを出していて、全国でいろいろなところに置かれています。望月さんはとてもポップな方向で縄文を紹介しているので、少しずつ浸透していっているかなという感じはします。

縄文と「アニミズム」

室井 今、日本に来る外国人の多くが、日本のアニメに関心を持っていますね。このアニメというものと、縄文時代の「アニミズム」はとても強いつながりがあるように思うんです。縄文時代の人々が、世界のあらゆる事物に精霊のようなものを見ていたというところに、アニメの水源があるのではないかと思ってね。

哲学者の梅原猛さんは「縄魂弥才」という、うまい言い方をしていました。「和魂華才」になぞらえた言い方ですが、弥生時代以降に入ってきた文字や織物、そして金属器といったものは、一言でいうと、効率を優先させるものたちです。梅原さんは、日本の基本的なあり方は「魂は縄文で、才能は弥生」なんだ、という考えなんですね。

子どもたちや外国人に、日本のアニメを切り口にして考古学を語ると、目がすごくキラキラ輝いてくる。これは世界に発信できる何かがあるのだろうと思います。

小林 たしかに、日本のアニメやサブカルチャーというのはすごくアニミズムの影響があると思います。

キャラクターに対する偏愛、造形へのフェティシズムみたいなものの源流は土偶や土器にあるのではないか。ヒトが媒介となりモノにエネルギーを入れる、魂を込める、という感覚が、縄文時代から今まで受け継がれているのかなと思います。

安達 本当にそうですね。アニメを通じて子どもに考古学について知ってもらえるのもそうですし、土偶などの本物が持つ力というのはすごいものだと思います。説明抜きでも子どもたちは引き込まれて見入ってしまったりする。新鮮な感覚で歴史を学べる、そうした「もの」の力を活かしていければと考えています。

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