【三人閑談】
ブラックホールを探る
2018/02/01
宇宙の構造とダークマター
松本 先ほど銀河の成長の話もバルジとの関係も出てきましたが、アンドロメダ銀河がなんであんなに美しい形をしているのかも、中心のブラックホールが関係しているかもしれないですよね。
岡 今のところ、関係ないという話になっていますね。
松本 関係ないのですか。
岡 アンドロメダとか天の川銀河というとても巨大な1兆太陽質量ぐらいのものの中に、400万太陽質量程度のものがあっても、大した影響はないですよね。全体の構造を決めているのは、全体の角運動量、回り具合とか、ガスの量とかそういうものらしいです。
松本 ダークマターは?
岡 ダークマターもそうです。
草上 ダークマター、いい言葉だな(笑)。
岡 ダークマターという、どうやら宇宙にはわれわれが認識できていない、まったく観測に関わらない暗い物質があるらしいんですね。
これは何から分かるかというと、天の川銀河も含めて、銀河というのは大概、回転している。回っているということは、回ることによってそれ自身が重力的に縮もうとしていることに抗うことができる。それである程度、平衡状態を保っているんです。ということは、回っている速度から、その銀河の中にどれだけの質量の物質があるかが計算できるんです。
それで計算すると、見えない質量がかなり広きにわたって銀河に伴っていないと、つじつまが合わないということになったんですよ。それがダークマター、暗黒物質と呼ばれるものです。どうも星とかガスなどの見える質量の10倍くらいあるらしいですね。
草上 ある方法で銀河とかの重さを推定することができるのだけど、推定した結果を見ると、既知のものを全部足し込んでも、そんなに質量はないはずだから、何かが隠れているというのがダークマターですよね。
岡 はい。ブラックホールや中性子星なんかも、その候補だったんです。それは完全に否定されたわけではないのですが、ちょっと分が悪い観測事実があります。なので、今のところ、ダークマターという暗黒物質の候補は、何か知らないけれども質量がある、そしてほかに相互作用はしない変な粒子ということになっています。
松本 ないと困るんですよね。
岡 ないといろいろ困る。宇宙初期のダークマターの比率というのも計算されていて、全体の23%はダークマターが占めていないといけなくて、70%はダークエネルギーという、これまた謎の暗黒エネルギーが占めていないといけない。
われわれを構成している陽子・中性子・電子といったバリオン物質(重粒子)は宇宙全体の4%に過ぎないという話になっていますので、暗黒物質や暗黒エネルギーがないと困るんです。
宇宙(そら)を見上げて
草上 ところで、松本さんは、高校生にはどんな感じで天文学の魅力を教えていらっしゃるんですか。
松本 地学なので固体地球から気象から皆やるんですが、天文は地質とか気象とかに比べて、よりダイレクトに生徒が反応してくれる感じがしますね。一般的に高校の天文の授業では計算ばかりで、天文嫌いをつくっているとよく言われていましたが、観測など実際の体験を通して、結果が導かれる。そして、これからこれが分かるという目標が明確になったりすると、食いついてきてくれます。
でも天文ファンは減りましたね。コアなのが、みんなおじさんになってしまって(笑)。若者でも、例えばスーパームーンだとかふたご座流星群があるぞといった話題を振ると、「じゃあ、今晩見てみます」とか反応は結構ありますから、そういう直接体験できるときに情報提供をして体験してもらうということは心がけているところです。
草上 最近、美しい天文写真が多いので、実際に望遠鏡をのぞくと、ちょっとがっかりみたいな感じのところはないですか。
松本 望遠鏡をのぞくと、実際は結構しょぼいんですよね(笑)。でも、だんだん慣れてくると、脳内で補完できる。知識が見えないものを見えるようにしますよね。岡さんのやられている電波でも、そうではないですか。
岡 僕ぐらい病気になってしまうと、だいたいスペクトルの並びから何となく頭の中でこういう光景になるというのが分かるのですが、皆がそんなことになったら、世の中はおしまいです(笑)。
松本 頭の中でガスがこう動いていて(笑)。
岡 ええ。でも、皆が天文学者になるわけではないですから、体験して楽しんで幸せになってくれれば、それでいいと思うんですね。
草上 私も初めて望遠鏡で土星の輪を見たときは感動しましたね。小さいひし形だったんだけれども、「あっ、見えた!」って。
松本 慶應高校の屋上にも15センチの屈折望遠鏡があるのですが、今は撮影技術の進歩がすごくて、オリオン大星雲とか、球状星団とか、かなり暗い天体も日吉の街中で軽く写すことができるんですよ。
天体観測も学校に生徒と一緒に泊まり込んでやっていますが、ワイワイ言いながら結構楽しんでいますね。
草上 それこそ流星群とかだったら、寝転がって数を数えたり。
松本 流星をやっているチームもあって、今は流星を電波観測でやっています。受信機を1個買うだけなので。そうすると雨が降っても昼間でも撮れるので、どのくらい流星が流れているかというのが分かります。数が分かるだけですけれど。
草上 なるほど。岡先生も、子どもの頃から天体に興味がおありだったんですか。
岡 ええ。天体望遠鏡は小さいのを買ってもらって、土星で感動したクチですね。小さい頃は、科学者になりたいという漠然としたものがありました。中学のときに大きな流れ星を見たとき、「ああ、宇宙をやろう」と思って以来ですね。
草上 流れ星からですか。
岡 何となく宇宙で、何となく電波になり、何となく銀河系の中心になって、いつのまにかブラックホールになっているという感じです。
草上 電波天文学が出てきたのは、人類にとってものすごい進歩ですよね。
岡 電波天文学でノーベル賞はいくつも出ていますからね。
松本 岡さんの活躍にこれからも期待したいですね。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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