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【三人閑談】
ブラックホールを探る

2018/02/01

重力波による観測

 ただ、最近、重力波が検出されましたね。あれはブラックホール同士の合体についての観測ですから、ブラックホールが合体して成長していく様が見えてしまったんです。それを繰り返すと、出来上がるのは中質量ブラックホールなんです。

草上 重力波が観測されたのが最近ですよね。

松本 2年前ですね。検出機器が稼働した直後からどんどん見つかっていますので、本当にそこら中にあるんだなと。ブラックホールが合体して中間質量ブラックホールがどんどんできている様子が年に何回も確認されていますね。

 皆すごく遠いんですよね。見ている範囲がすごく広いので、最初の重力波を起こしたブラックホール合体の事象は、13億光年かなたでした。

松本 LIGO(ライゴ)とかVirgo(ヴィルゴ)という重力波検出機ができたばかりで、やっとこの2年間で検出でき始めたところではないですか。だから、ものすごく規模の大きいものだけが見えているというのもありますよね。

 そうですね。規模が大きくて、1年に何回も検出されないと認識できないですよね。それが13億光年くらいの広さの範囲を探さないと見つからなかったということです。

松本 この発表は岡さんにとっては追い風なわけですね。

 ええ。実は私が中質量ブラックホールがここにあるのではないかという論文をThe Astrophysical JournalLetters に発表したのは、2016年の元旦なんです。2番目が最近の2017年9月のNature Astronomyの論文です。

最初の論文は〝疑い〟で、タイトルは「Signature of(徴候)」で始まっていて、2番目の論文は、「candidate(候補)」という言葉で終わっている。確実度をちょっと増している。

ところが、最初の論文をプレスリリースして2週間後くらいにLIGOの重力波の発表があったのですね。なので、われわれの発表はかすんでしまった(笑)。

草上 ああ、そういうことですか。

 それでも結構、海外のメディアには取り上げていただいて、それなりに載せていただきました。今年の論文はそれに輪をかけて海外では評判となった。それはたぶんNatureAstronomy の発信力がすごかったというのがあるんですね。

SFとブラックホール

草上 SF屋の観点からすると、ブラックホールってつまらないんですよ(笑)。なぜかというと、表面がないので。いわゆる事象の地平面というのはあるのですが、それは、そこから出てこなくなるという見えない境界、「ここから先に行ってはいけないよ」という立ち入り禁止ラインみたいなものですから、表面で何者かが暮らすという構想ができない(笑)。

昔、ハル・クレメントという人が『重力の使命』という小説を書いて、700Gくらいの惑星というのを想定した。でも自転しているので、極地方は700Gでも赤道は3Gくらいで、そこから人が入って、そこに住んでいる人と交流するような話だったんです。

1980年くらいに、今度はロバート・フォワードという人が、表面が700億Gという中性子星に住んでいる特殊な知的生命体という作品(『竜の卵』)を書きましたが、ブラックホールはそれができないからつまらないなと思って(笑)。

 中性子星の次の段階として、クォーク星というのが想定されているんですよ。

草上 そうなんですか。

 ええ、ドロドロな中性子の塊というのをさらに超えて高密度になると、ドロドロなクォークの塊の星というのがあるのではないかと。

ブラックホールになるまでにクォーク星という状態で宇宙に存在し得ることができるということですが、これはまだ確認されていません。

松本 ブラックホールにならずに済むんですか?

 はい。一応、表面はクォーク星として宇宙に出ているだけの大きさを保っている。ただ、そのへんはちょっと不定性が大きいので、理論的な計算はまだ完璧にはできていません。だから、まだ中性子の縮退圧が最終手段ではない。

松本 まだまだ先があるということですね。

 もっと高密度になっても、支えられる可能性がある。ただ、あまり小さくなってしまうと、支えられようが支えられまいが、事象の地平面がむき出しになった時点でもうブラックホールですから、その中に大きさのあるものがあろうがなかろうが関係ない。

松本 どんどん小さくしていくと、ブラックホールにならずに高密度星がつくれるわけですよね。

草上 ということは表面がある。

 表面が事象の地平面に隠れずにあることになります。

草上 そのほうが面白いな。勝手なことを言ってはいけないけれども(笑)。一方、太陽はそこにもいかないので、たぶん最終段階としては、白色矮星という小さい星になってしまうのですね。

 中性子の縮退圧で支えられたがゆえに、大きさを保っているわけですが、何らかの理由で太陽でも3キロくらいの半径に縮めるとブラックホールになれると言われているんです。地球の場合は、半径9ミリにすればなれる。

松本 1円玉くらいですか(笑)。

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