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【三人閑談】
ブラックホールを探る

2018/02/01

ホワイトホールはあるか?

草上 一方、最近だと、ミニブラックホールとかマイクロブラックホールというのがあって、日本のSFにはマイクロブラックホールをお茶漬けに入れて食べてしまうという話がある。ピリピリするって(笑)。

また、よくあるスターウォーズ的な映画の中で、いわゆるブラックホール、ホワイトホール、ワームホールという光の速度を超えて、宇宙を旅するための道具として設定されているのはよくありますね。

 入口のつくり方は何となく分かるけれども、出口のつくり方が難しいですよね。どうやってつくったものか。

草上 いわゆるホワイトホールって、吸い込みっぱなしではないだろう、入ってしまうので、きっとどこかに出ているに違いないという話です(笑)。

 理論的には、それはすごく早い時期に提唱されています。ただ観測されていないのと、つくり方がちょっと分からないですよね。ブラックホールは星をギュッとつぶせばできますけれども、ホワイトホールはどうやってつくるのか、まだ誰も分からない。

存在する可能性は否定できないんですよ。理論の枠組み内では許されている。ブラックホールとホワイトホールをつなぐワームホールというものも考えられていますが、キップ・ソーンさんによれば、それはあまり安定ではないらしいです。また、ブラックホール自身、蒸発するという話がありますね。

草上 なくなってしまうと。これ、またホーキング博士の話ですね。

 加速器なんかでつくられると思われているようなマイクロブラックホールはとても小さいのですぐ蒸発するといわれているんですよ。

松本 CERN(欧州原子核研究機構)が加速器でつくれるかもしれないので、危ないなんて言っている人がいましたよね。

面白いから研究する

草上 私は大学の学問というのは、なるべく浮世離れしていたほうが面白いと思うのですが、実業界の方などは、ブラックホールの研究って何かの役に立つのだろうかという興味をお持ちだと思うのです。

 よく言われますね。でも、そういう場合はにこやかに、「何の役にも立ちません」とお答えするしかないですね(笑)。

草上 でも、皆スマホで位置情報を取っていますけど、あれって相対論がなかったら取れないですよね。人工衛星というのはかなり速い速度で周っているので、相対論に基づいて補正をかけないと、GPSの位置情報は数キロから10数キロくらいずれてしまう。

 一般相対論にしろ、特殊相対論にしろ、基礎物理は役に立つ場面が多々ありますが、天文学は何億光年かなたの銀河の中心にブラックホールがありますよっていう話ですからね(笑)。

松本 でも、昔の人が大航海時代に世界地図をつくったのと同じようなことを、ものすごく大きな規模でやっているのでは? 今、われわれはどこにいるんだろうとか、どういうところに住んでいるのか、どうやってできたのだろうっていうのは、人間根源の興味であって、人類の知の地図づくりをしているのかなと。

草上 例えば、降着円盤発電なんてやったら、すごいぞという話とか。

 それよりも星の中心の核融合を有効活用したほうが、安全というか安定的だと思います。近いうちに実現の可能性があります。ブラックホールはなかなか制御が難しいですね。

草上 実は核融合に比べると、ブラックホールというのは、もう一段エネルギーを利用する効率がいいらしい。例えばマイクロブラックホール電池みたいなものがあったら(笑)。

 ちょっと想像できませんね。だって、怖いですもの。

草上 そんなもの、そばに置きたくないですか。

 ええ。うちの実験室にブラックホールがあるとか言えば、誰も近寄らなくなってしまう(笑)。でも、「面白いじゃん」というのがすべてだと私は思うのですね。

松本 無理に理由づけするよりは、「俺が知りたいから調べているんだ」と。

 そうです。僕も知りたいですし、あなたも知りたいでしょう? たぶん皆多かれ少なかれ、そういった興味はあるんですよね。「あっ、あそこにあれがある」みたいなものがあると、ちょっと幸せになる。

草上 はい。〝幸せになる〟って、いいですね。

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