三田評論ONLINE

【三人閑談】
ブラックホールを探る

2018/02/01

  • 草上 仁(くさかみ じん)

    作家。1982年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。在学中に第7回ハヤカワ・SFコンテスト佳作。SF、ミステリー、ホラー、ファンタジーなど幅広いジャンルで多数の短編、長編を発表。

  • 岡 朋治(おか ともはる)

    慶應義塾大学理工学部物理学科教授。東京大学理学部天文学科卒業。同大学院理学系研究科天文学専攻博士課程修了。博士(理学)。2015年より現職。ブラックホールを第一線で研究。

  • 松本 直記(まつもと なおき)

    慶應義塾高等学校教諭。担当は地学。横浜国立大学教育学部(地学専攻)卒業。同大学院修士課程修了。実際の研究データや直接体験を授業にどのように活かすか研究している。

ブラックホールとは?

 ブラックホールというのは、名前からして〝黒い穴〟ですよね。語源は1960年代にジョン・ホイーラーさんというアメリカの物理学者がボソッとつぶやいたものだそうですが、一番簡単に言うと、自身の重力によって、光すら出てこられなくなった天体のことを、ブラックホールというわけです。

草上 分かりやすく言うと、ものすごく大きい星が、自らの重力で支え切れなくなり、どんどん内側に縮んでいってしまって超高密度になった状態になる。そうすると、その中心点から一定の距離以内の場所からは、光すらも出られなくなってしまう。光が出られないということは、すべての情報が出られなくなってしまう。これがブラックホールですね。

 そうですね。現在では、「一般相対論(一般相対性理論)的に重力によって時空の歪みが生じた結果、この時空が切り離された領域」という理解がなされているのですが、実はその光が抜け出せない領域というのは別に一般相対論を必要としないんです。ニュートン力学でもそれはあり得る。

ニュートン力学の結果、光が出てこられない領域を計算した人が実は1700年代の後半にいて、ジョン・ミッチェルさんという方です。そのときはまだブラックホールという名前はないのですが。

草上 ブラックホールにも巨大なものや小さいものもある。最近、岡さんが発見されたのは中間質量と呼ばれる中規模のブラックホールということですが。

 太陽の30倍位より重い星が超新星爆発を起こした結果、重力を支え切れずに星の形を維持できないときにブラックホールになる。これを恒星質量のブラックホールと言いますが、理論的に生成過程がよく分かっているんです。

草上 小さいほうですね。

 ただし、そのときにできるブラックホールの質量は、星の重さを超えられないんですよ。今のところ、200太陽質量(太陽の200倍)よりも重い星というのは見つかっていないから、それより重い星はつくれないんですよ。そして、星の進化の過程で失われるものもかなりあるので、結局、この形でできるブラックホールは、20太陽質量くらいが関の山らしいんです。

草上 わが太陽は小さ過ぎてブラックホールになれない。

 お話にならないですね。

草上 1太陽質量というのはキログラムでいうと?

松本 2×1030キログラムです。ちょうど高校の授業でやったところです(笑)。

 恒星質量ブラックホールの候補天体は、われわれの天の川銀河を含む局所銀河群の中で60個ほど見つかっているんですが、最大のものでも16太陽質量です。

超巨大ブラックホール

 一方、超巨大ブラックホールというのが銀河の中心にあると言われています。渦巻銀河、楕円銀河など宇宙にはたくさんの銀河がありますが、それらの中心には、太陽の百万倍から数百億倍のブラックホールがあると言われています。

例えば、昔は準星と呼ばれたクエーサーという天体があります。これらが代表格ですが、多くの銀河の中心に非常に明るい点状天体があることが分かってきました。この膨大なエネルギーを解放するために、ブラックホールに物を落としたときの重力エネルギーの解放という理論が有力視されて、今に至っているのです。

例えば、物を落とすと壊れますよね。これがガスの場合は熱になるんです。熱のある物体は熱いので、赤外線や可視光、紫外線、X線などを放射するわけです。それが見えていると解釈すればつじつまが非常によく合うんですよ。なので、銀河の中心には、そういう巨大なブラックホールがあると、現在は思われているのです。

松本 ブラックホールそのものは見えないのだけれども、その周りにあるものが光っていて見えているということですね。

 そうです。

草上 クエーサーというのは、とても明るい星だけれど、距離が非常に遠い。そんな遠いところなのに明るく見えるためには、銀河の何倍という光を出していないと見えないはずだと。では、その光がどこから来るのかというと、エネルギーとしてはブラックホールとか回転する円盤状のガスである降着円盤みたいなものを持ち出すと説明がしやすいわけですね。

 天の川銀河の中心の超巨大ブラックホールは、1つ有望なものがあって、それはいて座A* (いてざ・エー・スター)という電波源として観測できるものです。とても暗いのです。

ところが、この周辺の明るい星の運動は観測されています。電波源の星は暗くて見えないのですが、そこに何かすごく重いものがないといけない運動をしているんですよ。ケプラー運動という太陽を周る惑星みたいな楕円軌道をしているのが見えるんです。

軌道が観測されている恒星は90数個あるのですが、S2という星が、今年、一番ブラックホールとおぼしき天体に近いところを通過するという予報が出ています。そこで相対論的な効果が見えるかもしれません。

松本 楽しみですね。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事