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湯浅 綺宙:チアダンサーとして NBAファイナルの夢の舞台へ
2025/12/15
マイノリティとして地元とつながる
──そうしてオクラホマシティ・サンダーのダンスチーム、サンダーガールズのメンバーとなるわけですが、どのような社会貢献活動をするのですか。
湯浅 チームに入ってわかったのは、試合よりも地域での活動のほうが圧倒的に多いということです。「アピアランス」でダンスを披露することはほとんどありません。地域の商工会議所のイベントに参加したり、学校や病院を訪問して人びとを勇気づけたりと、いろいろなかたちで地域とつながります。想像以上に多くのことができると実感しました。
──湯浅さんの中で、チアの仕事の印象が大きく変わったのでしょうか。
湯浅 そうですね。試合でダンスを披露することは活動の中のごく一部にすぎません。それよりもチームを代表してどれだけ地域とつながり、盛り上げられるか、というところが求められます。アメリカでは、チアがチームのアンバサダーとしての役割を担っていることを感じました。
それは私がまさにアメリカで学びたかったことで、その意味でむしろ期待以上のことが経験できたと思います。合格して1カ月もしないうちに参加した最初のアピアランスは、アジアの商工会議所のネットワーキングイベントでしたが、最初から目からウロコで、貴重な体験ができていると思いました。
──アメリカは公平やダイバーシティを理念としては掲げる一方、それと矛盾するようなシチュエーションもあるのではないかと思います。アピアランスに参加してどのようなことを感じましたか。
湯浅 オクラホマはアメリカの中央部に位置し、白人人口が多い地域です。その中で、アジア系の方が「私も頑張ります」と声をかけてくれたり、子どもたちが笑顔で応援してくれました。マイノリティの中だからこそ、そこで頑張るアジアの人たちにインスピレーションを与えられたのはとても大きな経験でした。
スポーツで街が一体となる瞬間へ
──昨シーズンは6月に行われたNBAファイナルのコートに立ち、チームもチャンピオンに輝きました。その時の熱狂や興奮について聞かせてください。
湯浅 正直、オーディションを受けた時には、サンダーがチャンピオンになるとは想像していませんでした。オクラホマ唯一のプロスポーツチームで、しかも優勝は史上初めてだったので街全体が本当に盛り上がりました。
みんなサンダーが大好きなので、普段からチームが勝てば盛り上がりますが、プレーオフに進出し駒を進めるごとに、街中がサンダーの話でもちきりになっていきました。街にはグラフィティアートが増え、レストランも特別メニューをサーブし、どこに行ってもサンダー一色。優勝パレードには、「オクラホマにこんなに人がいたなんて!」というほど人が集まりました。
スポーツを通して街が一体になっているのを実感できた瞬間でした。
──プロスポーツの本場で、街がドラスティックに変わる様子をその中の一員として体験できたのですね。ファイナルの舞台に立った時には目の前にどんな光景が広がっていましたか。
湯浅 言葉で表せないほどの熱狂でした。私自身、夢の中にいるようなフワフワした感じだったところがあります。世界各国からメディアが集まり、現実と思えないほどの歓声が轟くという、普段とはまったく違うファイナルならではの雰囲気の中で踊れたのは忘れられない思い出になりました。
──ファイナル前後のアピアランスでは、街やコミュニティからはどのような変化が感じられましたか。
湯浅 ファイナルの舞台が終わって数週間経っても、街全体のお祝いムードは続きました。みんな幸せそうで、ポジティブなオーラが溢れていました。アピアランスでもたくさん声を掛けていただき、ファンの方々との距離もさらに縮まったように思います。
──コミュニティがソーシャリー・グッドな状態であり続けることに、チアがすごく貢献していると感じました。今夏オクラホマシティ・サンダーを退団されましたが、今後の活動のイメージを聞かせてください。
湯浅 アメリカでの経験を持ち帰り、スポーツと地域が一体となる姿を日本でも実現させたいというのが、私の最終的な目標です。このたび素敵なご縁をいただき、2026年からJリーグ・ベガルタ仙台にてチアディレクターを務めさせていただくことになりました。ベガルタ仙台は私がチアを始めるきっかけになったチームでもあり、私の原点での新たな挑戦に心が燃えています。日本でチアという観点、スポーツエンターテインメントという観点から、よりスポーツが根づいた街をつくることに、私の学んだことを生かしていきたいと思っています。
──湯浅さんの活動は日本のスポーツに貢献できることがいっぱいあると思います。応援しています。ありがとうございました。
(2025年9月26日、オンラインにて収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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