【話題の人】
友成 晋也:アフリカで野球を通じての人材育成に尽力
2025/11/07
慶應野球部との交流の成果
──昨年、今年と、慶應の大学野球部がガーナに行かせていただきました。
友成 大変意義深い交流になりましたね。ガーナ人でベースボーラーシップを学んでいる指導者10人と慶應の野球部員が一緒になって5つのチームをつくり、5つの地域で子どもたちにゼロからベースボーラーシップ、「規律・尊重・正義」の心をどうやって育むかの実践をしました。
今年は成果がとても出たと思います。例えばガーナ甲子園大会初日、8時集合だったのに、各チームは7時半に来て自発的にウォーミングアップをしていました。日本だったら当たり前かもしれませんが、アフリカでは奇跡に近いことです。
ベースボーラーシップとは「規律・尊重・正義」などのスポーツマンシップを示す姿勢のことを言いますが、その1丁目1番地は、「なぜ時間を守らなければいけないのか」から始まります。日本人は何も考えずに時間を守りますよね。集合時間3時だったら5分前には全員集合している。
でも、アフリカでは時間の概念が違うのです。アフリカでは3時0分から3時59分が3時なのです。だから約1時間遅れてやってきても遅れていることにならない。でも、それでは3時間練習できるところが2時間しかできない。「それでいいのですか?」ということから、「やはり時間を守るべきだ」となります。
野球のエッセンスは、Anticipation(予測)、Preparation(準備)、Confirmation(確認)です。野球というスポーツは、常に今どういう状況であり、次に何が起きるかを予測し、そのためにどのように準備をして、その結果を皆で確認することが重要です。実際の試合でも、投げて、打って、走る時間はわずかで、予測、準備、確認の繰り返しです。
ですので最初の課題は、時間どおりにグラウンドに来るために、その阻害要件は何かを分析する。例えば渋滞に遭うとか、お母さんに仕事を言いつけられる可能性などをピックアップして、その準備をする。それを考えて実行できるのがいい野球選手なのだ、と。
慶應の野球部員もガーナでの交流を通じてとても成長したように感じています。
──今後の活動はどのように考えられていますか。
友成 多くの国で野球を通じた人材育成が定着し、「規律・尊重・正義」の育まれたコミュニティ、地域や社会のリーダーになれる人材が野球を通じて輩出されていくようにしたい。このことがアフリカの未来を変えるのかと思っています。
僕がいなくなっても、広がっていくような仕組み、つまりベースボーラーシップ教育のスクール化ができればと思っています。スクールですから、2カ月に1回評価をして、それを親御さんに返していく。その価値にお金を払うシステムです。お金が集まれば、コーチたちはそれで生活できるし、野球連盟にもお金が入る。そういうことを将来的には考えていて、今着手し始めています。
アフリカに根付くエンジョイ・ベースボール
──ベースボーラーシップ教育の教本の最後にエンジョイ・ベースボールが書かれていますね。
友成 「なぜベースボールはエンジョイしなければいけないのか(Why should we enjoy baseball?)」です。私が塾高2年生の時に、前田祐吉監督が大学の野球部の監督に返り咲き、その時からエンジョイ・ベースボールと言い始めました。
前田監督の言われていることで本当にそうだなと思ったのは、言われてやるのではない、主体的に楽しめ。つまり自分たちで考えろ、自らクリエイティブにやっていくことが大切だということです。
前田さんとは大学時代はあまり話す機会はなかったのですが、社会人になってからは「友成、ガーナで頑張っているな、応援するぞ」と言っていただき、アフリカ野球友の会の会員にもなっていただきました。
第55条「なぜエンジョイしなければならないのか」で私が言っていることは、前田さんとは微妙に違っています。私は、ベースボーラーシップの目指すものは2つの勝利だと言っています。1つの勝利は相手に勝つこと。そしてもう1つの勝利は、昨日の自分に勝つことです。つまり「成長しろ」ということです。目的は勝利と自分の成長。この2つを楽しむことがエンジョイ・ベースボールだぞと、これがアフリカの人には響いています。
日本の野球を通じてアフリカの子どもたちは確実に育っています。エンジョイ・ベースボールも、今アフリカで根付きつつあります。
──これからアフリカでますます野球が盛んになることを願っています。本日は有り難うございました。
(2025年9月10日、日吉キャンパス内にて収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
| カテゴリ | |
|---|---|
| 三田評論のコーナー |
