【話題の人】
小野山 要:撮影監督として世界を舞台に活躍
2025/10/24
Divé+ を立ち上げて
小野山 そうした体験を経たこともあって、この取り組みを業界のみんながやれば、イギリスならば、もしかしたら他の人がチャンスをどこかで与えているかもしれないと思ったんです。
一方で、フランスはどうなんだろうと。もしあのままフランスに残っていたら、おそらく仕事を続けることはできなかったと思うんです。現在も、やる気があって、映画が好きな人でも、辞めざるを得ない状況がある。
なんでこんなに目を輝かせた才能が消えていかなければいけないのか。いたたまれなくなって『Top Boy』で経験したことを、フランスに帰って友達に話し始めたんです。
すると、返ってきた返事が意外で、イギリスはフランスより人種差別が激しいんだと。そういったことをやること自体が、生物学的には人種というものは本来ないのに、あたかもあるようにして、ある一定の人種を優遇しているのは差別だと言うんです。
──むしろ逆差別ではないかと。
小野山 それで、みんなが「フランスには差別で苦しんでいる人はいない」と言うのであれば、本当にいないのか探してみようと思い、業界中を探しました。すると自分のように、差別感を感じている、マイノリティの人々が大勢いたんです。
彼らはBLMとか、色々なテーマに興味を持っていて、話すたびに学ぶことが多かったんです。それが面白くて、最初は一対一で会っていたのが、気付いたらカフェに入らないぐらいの人数になっていました。
そんな時、この集まりを「団体の形にしよう」と言われて、それで作られたのがDivé+(ディヴェ・プリュス)ですね。
──この名前はフランス語でダイバーシティを意味するdiversitéと、+(プラス)を掛け合わせたものになるのでしょうか?
小野山 その通りです。最初はles divés といって「ダイバーシティのみなさん」という意味で表記していたのですが、ある時トランスジェンダーの人たちから、フランスのフェミニズムが危機的な状況だという話を聞いて。
フェミニズムは本来、社会的なあらゆる差別を一切やめましょう、というムーブメントなのに、自分たちの権利を主張しながら、他の人たちを差別する、という人もフェミニストと自称している。その影響から、女性問題を扱っている団体に入っても居場所、いわゆるセーフプレイスがないと。だから、そんな場所があれば嬉しい、と言われたんです。
そこで、団体名に「+」と付け、全ての人たちを包摂しようということになり、Divé+ という名前になったんです。
──具体的に、Divé+ はどのような活動を行っているのでしょうか。
小野山 僕が考えているのはアメリカ、イギリス型のメンターシップ制度を広めたいということです。差別を感じるマイノリティに対して、映像業界の中でのセーフプレイスになれればと考えています。
それから、先ほども言ったように、そこに「いない」ことになっている人をみんなの目に届くようにしてあげたい。例えばアラブ系の監督がドキュメンタリーを撮った、といったことがあれば、インスタグラムでシェアするよう、心掛けています。
──見えていない人たちの存在を見えるようにすると。
小野山 僕は、差別のない制作環境で、差別を助長しないような作品をみんなで撮っていきたい。それをフランスでも実現したいんです。
僕はフランスを第2のふるさとと思っています。素晴らしい国だなとも思うし、素晴らしい人にもたくさん会ってきました。ただ、どうしても素晴らしいからこそ見落としがちというか、盲目的になってしまう側面があると思うんです。そういう人には変わってほしい。変わって、保守的な考えに対して「ノー」と一緒に言ってくれる人を増やしていければ、そう思っています。
今後の活動について
──それでは最後に、今後の活動についてお聞かせください。
小野山 今はアメリカのドラマも撮るようになって、アメリカのAmazonプライムの新作の『Butterfly』でも撮影監督を務めています。今年はMLBジャパンさんのCMも担当させていただきました。ぜひ、見ていただけると嬉しいです。
──今後、日本でお仕事をされる可能性もあるのでしょうか?
小野山 お話をいただければ、可能性は充分にあると思います。
ただ、以前日本で仕事をした際に、労働環境の違いには驚きました。僕らは普段、国際ルールに従っているため、1日の撮影時間は約12時間、それから次の撮影を始めるには11時間、間を空けないといけないんです。
でも、日本では撮影時間が14時間、時にはそれを超過することもある。休息時間という概念もないため、超過しても、普通に次の日の同じ時間から撮影を始める。時には、ほとんど寝ないで撮影をすることもあると聞きます。
──残念ながら、ありますね。
小野山 今後、海外のプロダクションが進出してきて、日本で撮影をするとなった際、日本人のスタッフを国際ルールで雇う、といったケースも出てくると思います。
そうなると、同じ撮影監督を国内のプロダクションが雇おうとしても、待遇面の差から、皆、海外のプロダクションを選んでしまうのではないかと。それはもったいないですよね。
日本にも若くて優秀な人材が大勢いると思います。ぜひその人たちが才能を存分に発揮できる環境を作ってほしいです。
──いつかそんな日がくることを願っています。本日はどうもありがとうございました。
(2025年7月15日、三田キャンパスにて収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
| カテゴリ | |
|---|---|
| 三田評論のコーナー |
