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小野山 要:撮影監督として世界を舞台に活躍
2025/10/24
イギリスとフランスにおける、多様性への取り組み方の違い
──成功への道を歩み始めたわけですね。
小野山 ただ、その時に思ったのが、イギリスはなんでこんなにうまくいくんだろうと。フランスには憧れもあって、準備や、現地に溶け込むための努力を色々していたのに、うまくいかなかった。
一方、イギリスには個人的な思い入れがあまりなかったのに、周りのリアクションが全然違う。フランスで感じていた、何を言っても先に進めない感覚が、イギリスにはなかったんです。当時はその理由がわからなくて。
それからまもなくして、BLM(ブラック・ライヴズ・マター)運動が起こったのですが、その時、イギリスでは周りにいた黒人の撮影監督や監督、アーティストのみならず、他の白人もBLMに関してすごく真剣に取り組んでいたんです。映像業界から、今度こそ差別をなくすんだと言って。そのことにすごく感動しました。
もちろん、フランスでも社会的な動きはありました。でも映像業界に関していうと、イギリスの方が反応が大きかった。現にフランスでは有名な監督もアーティストも、それこそ黒人の俳優も、誰一人BLMについて発言しなかったんです。
そこでようやく、自分がフランスでチャンスをもらえなかったのは、「そこにいない存在」(インビジブル・マイノリティー)として扱われていたからなのだと理解したんです。
──いわゆる「ガラスの天井」があった。
小野山 アジア人だから差別された、という感覚はなかったのですが、まるでそこにはいないように扱われている。だからフランスではチャンスを与えられることもなかったんだと、ようやく気が付きました。
Netflixでの出会いと発見
──Netflixの『Top Boy』シリーズを撮られたのはその後ですか?
小野山 そうですね。この『Top Boy』がすごく大きな経験で、初めてプロダクションに行ったら、本当に様々な人たちがいたんです。国籍も多様で、年齢層も性別も様々。トランスジェンダーの人もいました。
そこで彼らから、Netflixでは多様性を支持することを積極的にやっていて、『Top Boy』はその中でもすごく大切な作品だから、監督や撮影監督には多様性を擁護するための予算が付けてある。だからメンター(指導者)となって若い見習いを取ってくれたら、その子たちに支払うお金も用意していると、言ってくれたんです。
──素晴らしい。
小野山 そこで、インスタグラムを使って見習いの募集をかけたら、その投稿がものすごく拡散されて。48時間でメールが1000通も届いたんです。その内の100通ぐらいが、自分たちの現状について書かれた内容で、読んでいてものすごく胸を打たれたんです。
環境のせいで、映画学校に行けないが、自主制作で作品を作っている、という人もいれば、映画だけでは食べていけないから仕事をしながら映画を撮っている、という人もいて。どの人を選ぶのか、ものすごく悩みました。
──その中で1人しか選べないとなると、選ぶのも大変ですね。
小野山 そうなんです。それで悩んだ結果、選んだのが黒人系のトランスジェンダーの子でした。
ものすごくやる気がある子で、その仕事を機に、今までお金をもらえるから嫌々やっていたバーの仕事を辞めることができたんです。さらに作品作りに関わる中で、時々簡単なシーンを撮らせてあげることもできました。
その子から、LGBT問題についても色々と教えてもらいました。若い子なのに一生懸命教えてくれて、自分にとっても学ぶことが多かったなと、『Top Boy』の現場で痛感しました。
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