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森 裕之:「気候変動に最も影響力のあるリーダー100名」に選出

2025/08/21

日本の「使う責任」

──JOGMECは経済産業省や環境省のような役所でも、民間企業でもない。独立行政法人としての立場はどうプラスに作用しているのでしょうか。

 独立行政法人は、政策実施機関という役割を担いながら、政策当局と緊密に連携しています。また、プロジェクトの推進においては、民間企業とも一体となって取り組んでいます。

JOGMECがファイナンス、技術、インテリジェンスという3つの機能を合わせ持っているという点は、公的機関の中でも非常にユニークであると思います。日本のエネルギー政策と現場のビジネスを繋ぐ「触媒」として、3つのサービスを顧客に提供していくわけです。

顧客は日本政府、日本企業、外国政府、外国企業、国際機関と様々です。いろいろな顧客のニーズに合わせて、JOGMECの機能を有機的に組み合わせてサービスを提供していくという意味で、世界的にも珍しい公的機関なのかなと思います。

──なぜ日本がこういった役割を担うのでしょうか。

 日本は年間で約7000万トンのLNGを輸入している、世界第2位の大規模なLNG輸入国です。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の中に、「つくる責任 使う責任」という目標がありますが、私たちは消費国として「使う責任」を果たさなければならないと考えています。温室効果ガスの排出を伴うエネルギー資源を利用する以上、LNGのバリューチェーンにおけるメタン排出を可能な限り少なくしていく取り組みが不可欠なのではないでしょうか。

地球環境とLNGの両立のために

──森さんがこのような取り組みを始めたきっかけを教えてください。

 温室効果ガス排出が少ないLNGを使っていく方向性が必要ではないかと思い始めたのは、10年ほど前です。当時、環境保護とLNGの輸出をいかに両立すべきかについて、環境意識の高いカナダのブリティッシュ・コロンビア州の方々と議論する機会がありました。

同州の豊富な水力発電で得られた動力でLNGを生産すれば、低炭素で環境に優しいLNGとして差別化できるだろうということで議論が進みました。LNGは商品として差別化しづらいですが、環境に優しいLNGにはプレミアムが付くと考えたのです。

このような問題意識がクリーンなLNGや、メタン排出削減に向き合うきっかけとなりました。今後、欧州のメタン排出規制により、低炭素LNGはプレミアムどころかマストになる可能性もあります。時代の流れは速いものですね。

──今後はどういう取り組みをしていきたいですか。

 世の中の変化は激しく、また先が非常に見えにくい。先の見えない世の中に対して、公的機関としては、多様なニーズに合うようなメニューをたくさん用意しておく必要があると思っています。

メタン対策のみならず、日本のエネルギー政策をよく理解し、低廉かつ安定的なエネルギー源として石油・天然ガスの探鉱・開発支援も継続していきたいですし、新たな役割として追加された水素等の供給やCCSも促進していきたいと考えています。

これからも、対象とする資源の多様性、提供するサービスの多様性、国内外の顧客の多様性といった様々な多様性をもって、日本への安定かつ低廉なエネルギー供給と持続可能な国際社会の発展に貢献したいと考えています。

大学時代の読書が糧に

──大学時代はどのように過ごされていましたか。

 政治学科は、いろいろな勉強ができそうだなと思いました。政治理論とか政治思想とか、あと国際政治も当時から華やかで、それから社会学、マスコミ論、地域研究などなど面白いテーマがとてもたくさんありました。ゼミは鶴木眞先生のマスコミ論の研究会でした。

時間があったので、大学時代は本ばかり読んでいました。例えば山崎正和の『演技する精神』とか、ミルの『自由論』、エーリッヒ・フロムの『自由からの逃走』、ロラン・バルトの『第三の意味』、ジョン・バージャーの『イメージ』、ミシェル・フーコーの『性の歴史』、レヴィ・ストロースの『野生の思考』など。たくさん本を読んでいたことは、社会人になり、いろいろな分析などにとても役に立っていると思います。

──なぜJOGMEC(当時の石油公団)を受けたのですか。

 当時、落合陽一さんのお父さんの落合信彦さんのアサヒスーパードライのCMが評判で、あれに油田が出てきてそれが格好いいなと思って(笑)。石油・天然ガス産業には、メジャーズやセブン・シスターズと呼ばれる、日本にはない開発から輸送・精製までを全て手掛ける国際企業があり、そこに魅力を感じました。海外で石油・天然ガス開発に従事する日本企業を支援する石油公団という組織を知りませんでしたが、話を聞いたら面白そうだったので入団しました。

──後輩の塾生・塾員へメッセージは何かございますか。

 「自ら調べ自ら考えること」を励行して欲しいということです。最近情報が溢れすぎているなと思います。何が正しいのかよくわからない時代だからこそ、自分で調べて、自分で考え、ニュースでも自分できちんと選択していく。こういうことができるようになる必要があると思います。

この「ニュースの選択」という話は、ゼミの師匠だった鶴木眞先生がおっしゃっていたことです。先生の授業でよく覚えているのが、情報が溢れている中、自分の頭でしっかり考えてニュースは選択していかなければいけない、ということでした。

──そういう姿勢が温暖化対策として再生可能エネルギーがすぐに思い浮かぶ中、メタン排出削減に着目されたことの根本にあるのかもしれませんね。

 そうですね。世の中には石油や天然ガスなどの化石燃料に対する厳しい風潮もありますが、本当に化石燃料なしで良いのだろうかと。カーボンニュートラルはもちろん大事ですが、では現実を支えているのは何なのだろうという、職業的な懐疑心というものは、自ら調べ、自ら考える姿勢から来ているのかもしれません。

──今日はお忙しいところを有り難うございました。

(2025年6月24日、三田キャンパスにて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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