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2025/08/21
JOGMECの役割
──森さんが理事をお務めのJOGMECとはどういう組織なのですか。
森 独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、2004年に設立された経済産業省の傘下にある日本のエネルギー政策の実施機関です。
設立当初の主な業務は、石油・天然ガスや金属鉱物資源の探鉱・開発、資源備蓄、金属鉱害防止事業などでしたが、2012年に再生可能エネルギーである地熱事業等が追加されました。また、カーボンニュートラル社会の実現を見据え、最近では水素等の製造・貯蔵及びCCSに対する支援業務、洋上風力発電のための調査といった新たな役割も追加されました。
エネルギーは手ごろな価格で安定的に調達する必要がありますが、同時に気候変動問題にも配慮した持続可能なエネルギー開発も非常に重要です。低廉かつ安定的な供給と、環境に配慮した供給―業界用語ではこれをエネルギーの「トリレンマ(Trilemma)」と呼びますが、この3つをバランスよく達成していかなければいけません。
日本では、経済産業省が「S+3E」を基本理念にエネルギー政策を展開していますが、これは、Safety(安全性)を大前提に、Energy Security(安定供給)、Economic Efficiency(経済的効率性)、Environment(環境適合)を同時に実現するという考え方です。JOGMECもこの原則に基づき、日本国内外のプロジェクトを支援しています。
──理事・エネルギー事業本部長というのはそれらのプロジェクトを統括するのですか。
森 本部長の仕事は、石油・天然ガスから脱炭素化にかかる水素等、CCSに至るまで、エネルギー支援事業全体を統括することです。支援には出資・債務保証などのファイナンス支援、地質調査や事業評価、技術開発などの技術支援、情報収集・発信などのインテリジェンス支援が含まれます。
理事というのは普通の会社で言えば、いわゆる役員に相当するものですね。理事長が社長です。独立行政法人は法律上、理事が役員です。
メタン排出削減の重要性
──重い責任を負っていらっしゃると。米国『TIME』誌にはメタン排出削減の取り組みを評価されたということですが、この過程について、少し詳しくお話しいただけますか。
森 天然ガスの主成分であるメタンは温室効果ガスの一つですが、大気中に排出されるとCO2よりも温室効果が高いとされています。したがって、地球温暖化防止に向けては、天然ガスの生産・流通の過程で排出されるメタンの漏えいをいかに低く抑えるかという対策が非常に重要です。
ところが、メタン排出の測定は結構難しい。工場内の設備一つひとつにセンサーやモニターを設置していては、相当なコストがかかってしまいます。一方で大事なのは、適切に測定し、それを適切に報告し、適切に認証してもらうこと。このプロセスをMRV(Measurement、Reporting、Verification)」と言いますが、メタン排出削減には、何よりもまずMRVの確立が必要不可欠です。
MRVの国際的な標準化に向けた取り組みは、IMEO(国連環境計画国際メタン排出観測所)を中心に行われています。標準化というと欧米主導で議論されがちですが、JOGMECとしては、気象条件が欧米とは異なるアジアの風土に根ざした主張をしっかりしていくことが大事だと思っています。
JOGMECは、日本企業と協力して、アジア各国の国営石油会社と共同で、メタン排出の測定技術の開発に向けた取り組みも行っています。具体的には、操業現場での測定、漏えい箇所への改善提案といった技術コンサルテーションなどです。
また、アジアの著しい経済成長を支えながら脱炭素を目指す枠組みとして、日本が提唱したAZEC(アジア・ゼロエミッション共同体)の一環として、「CLEANイニシアティブ」という取り組みも推進しています。CLEANは、Coalition for LNG Emission Abatement toward Net-zero の頭文字を取ったもので、日本語では「ネットゼロに向けたLNGからのメタン排出削減のための国際連携」と訳されます。これは、LNG購入者がLNG生産者に対して、LNGプロジェクトごとにメタン排出削減対策に関する情報公開を依頼し、JOGMECが事務局となって収集された情報を取りまとめ、プラットフォーム上で公開するというものです。世界初となるプロジェクト単位でのメタン排出量や削減の取り組みの情報公開、LNGのバリューチェーンのクリーン化に向けた消費国側のアプローチという新たな視点が米国『TIME』誌でも評価されたのではないかと考えています。
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