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森 裕之:「気候変動に最も影響力のあるリーダー100名」に選出

2025/08/21

  • 森 裕之(もり ひろゆき)

    独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)理事・エネルギー事業本部長

    塾員(1991政)。大学卒業後石油公団(現JOGMEC)入団。総務部総務課長、エネルギー開発金融部長等を経て2024年より現職。

  • インタビュアー藤田 康範(ふじた やすのり)

    慶應義塾大学経済学部教授

評価されたメタン排出削減の取り組み

──森さんは、昨年、米国『TIME』誌の「2024年気候変動に最も影響力のあるリーダー100名」に選出されました。日本人として初めての選出という快挙ですが、どういう点が評価されたと思われますか。

 一言で言えば、気候変動問題についてエネルギー産業の自助努力を促すように現場に根ざした支援活動を行ってきたことが評価されたと思います。

特に脱炭素、低炭素化の流れの中で、日本企業をはじめアジアの様々な企業の方々と技術協力や技術開発をしたり、日本のLNG(液化天然ガス)購入者の皆様との関係を構築したりといった、JOGMECのLNGバリューチェーンにおけるメタン排出削減に向けた努力を評価していただいたと思います。これは同僚のハードワークの賜物なので感謝しています。

──メタン排出削減の取り組みは、よく言われる再生可能エネルギー推進と比べて、どのような点で優れているのでしょうか。

 気候変動問題というのは、20世紀の終わり頃から、大気中に放散される温室効果ガスが地球温暖化につながるということで、非常に深刻な問題と認識されてきました。主要な温室効果ガスには二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)がありますが、これらは化石燃料と言われる石油、天然ガス、石炭などの利用時に排出されます。

そこで、これらをエネルギー源として使うのは適切ではないという見方がされるようになり、21世紀になってからは太陽光発電や風力発電などの、いわゆる再生可能エネルギーの導入が世界各地で行われるようになりました。

さらに2015年に開催されたCOP21でパリ協定が締結され、各国が2050年頃までにカーボンニュートラル、要するにCO2の排出を実質ゼロにすることに合意したわけです。

ところが2022年2月にロシアがウクライナ侵攻を始めました。これによってロシアに天然ガス輸入を依存しているヨーロッパを中心にエネルギー供給の不安定さが浮き彫りになり、多くの国でエネルギー安全保障の重要性が改めて認識されるようになりました。

さらに、最近、生成AIが急速に発展しています。AI向けのデータセンターは大量の電力を必要とすることから、世界中で電力需要が伸びているのです。このようなことから、再生可能エネルギーだけで安定かつ十分な電力を補うのは、まだ難しいと思います。

温室効果ガスを除去する技術

──再生可能エネルギーだけでは難しいと。

 はい。当面は天然ガスなど既存のエネルギーに依存せざるを得ない状況が続くと考えられています。今年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では、再生可能エネルギーの重要性を再確認する一方で、温室効果ガスの排出が比較的少ないと言われている天然ガスについても、カーボンニュートラル達成後の重要なエネルギー源に位置づけられています。

日本は天然ガスを液化し、LNGとして輸入していますが、今後も天然ガスを利用し続けるのであれば、LNGのバリューチェーン、すなわち製造・輸送過程での低炭素化が必要になります。そのための具体的な手段として、メタンの排出削減や、CO2を回収・再利用するCCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)という技術が注目されています。なお、CO2を再利用せずに回収・貯留する技術はCCS(Carbon Capture, and Storage)と呼ばれます。

気候変動問題に対応していくためには、温室効果ガスを出さない再生可能エネルギーの拡大と同時に、どうしても化石燃料から出てしまう温室効果ガスを生産工程からどうやって減らしていくかを考えなければいけません。メタン排出の削減や、CCUSといった取り組みは、現実的な低炭素化の戦略の柱になると考えています。

──CCSやCCUSの課題はどういったところでしょうか。

 今のところCO2自体は価値を生まないので、そのコストを誰が払うのかというところがなかなか難しい。昨年、「CCS事業法」という法律が成立したのですが、具体的にどういう公的支援をしていくかを今、政府の中で議論しています。また、地下にCO2を埋めるというと、地震との関係を懸念される方々もいらっしゃるので、社会受容性の促進も課題のひとつです。

さらに、日本ではこれまでCCSに関する技術リスクを減らすために実証的な取り組みが行われており、技術面の課題は徐々に克服されつつあると思いますが、コスト削減も課題です。

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