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内田 伸哉:新しいエンタメを追究する"サラリーマジシャン"

2024/08/19

サラリーマジシャンというスタンス

──内田さんには「株式会社スターミュージック・エンタテインメント取締役CMO」というもう1つの顔もあります。どのようなお仕事なのでしょうか。

内田 MCN(Multi Channel Network)と呼ばれる、TikTokやYouTubeのショート動画を扱う広告制作兼インフルエンサー・マーケティングを手掛けています。その活動ももちろんマジックに生きています。今の仕事はクライアントとクリエーターの両方と接する機会があります。

僕は広告代理店に勤めていた経験があるのでクライアントの気持ちもわかりますし、自分もクリエーターなので、クリエーターの気持ちもわかります。企業とクリエーター双方の事情をくみ取りながら、互いの最適点はここだと提案できる希有な存在ではないかなと思います。おそらく広告代理業のマーケターで、フォロワー1,000万超えている人はいないので、そういう意味で説得力のある提案ができる立場にいます。

──企業も今でこそデュアルワークと言って副業にも寛容になりましたが、私たちが大学を卒業したばかりの頃はまだそういう時代ではありませんでした。

内田 そうですね。最初に勤めた広告代理店では、まだマジックはこっそりやっていました。ある時、〈iPadマジック〉を見たクライアントがとても喜んでくれて新規の案件を2件開拓することができました。その結果、会社のほうも本業に良い効果があるならと、マジシャンとしての活動を容認してくれました。

──それ以来、“サラリーマジシャン”のスタンスは一貫していますね。

内田 僕の場合、マジシャンも会社勤めも、エンターテインメントが軸にあります。エンタメコンテンツで世の中をもっと面白くしたい。ただ、会社とマジックが違うのは、会社が営利企業であることです。もちろんマジックのようにお客さんを騙すことはしませんが、きちんとお客さんに満足してもらえた対価で利益を最大化することを大事にしています。

マジックのほうは、利益よりも面白さや新しさ、楽しさが大事で、それに付随して少しだけ営利があるというくらいです。マジックも新しいトリックを開発するのはお金がかかります。〈iPadマジック〉で言うと、プログラムをつくったり、ソフトウェアを買うための資金です。マジックは僕の権限でそこに投資できますが、仕事のほうではきちんとお金を稼ぐことでバランスを取っています。稼ぐこととエンターテインメントのバランスが取れているからこそ楽しく仕事ができています。

──マジックを本職とするよりも得るものが大きいのですね。

内田 そうですね。もちろん本業でしかできないこともあります。でもマジック1本でいくとなると、食べていくためのマジックになる。僕はお金を稼ぐためのマジックよりも純粋に面白いマジックを追究したいと思っています。

──マジシャンの活動を続けるために、どのようなことに注力していますか。

内田 仕事とマジックを両方とも疎かにしないことです。そのためにも、平日の日中は企業経営、土日はマジックというふうに、それぞれの時間を決めています。マジックのほうでは最近、ドローンの制御技術の勉強をしたり、生成AIをコンピューターに組み込んでどういったものがつくれるのかをリサーチしたりしています。

マジックは僕にとってライフワークなので、これを続けることは“ご飯を食べるのを止めない”のと近い。そして、マジック以上に新しいエンターテインメントをつくりたいと考えているので、基本的にはつねに新しいものを考え続けていくのだと思います。今までになかったものがどんどん出てくるので、僕も探究を続けていけたらなと思っています。

──これからのご活躍を楽しみにしています。有り難うございました。

(2024年6月25日、三田キャンパスにて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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