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寺田親弘:起業家育成を目指す「神山まるごと高専」

2023/12/15

社会に直結する5年間

──最近だと塾員の本城慎之介さんの「軽井沢風越学園」など、経営者の方がつくる学校がいくつかありますね。

寺田 中学校や小学校も考えたこともあったのですが、私自身何か「芯食う」感じがしなかったんです。神山でやったから注目していただいた気もします。渋谷高専だったらそこまでじゃないんじゃないか。

社会に直結する5年間の設計ができる期間というのがよかったですね。高校をつくったら、大学への接続を意識せざるを得ない。高専の場合はいったんそこで完結しているんですよね。

高専生は就職は本当に引く手数多だし、そうであれば起業するということをメインストリームに置いたらそれでいいのではと。高専というと良き技術者養成みたいな、狭い感じがするけれど、実は一番汎用性のある、選択肢の広がる学校なのではないかと思ったのです。テクノロジーとデザインなんて、言ってみれば、現代の読み書きそろばんみたいなものですし。

──なるほど。今、国際的にも高専はすごく注目されていて、特にアジアの国々が、さらに発展するのに必要だと高専教育を行っています。

寺田 当時、一番よく話していたのが大南さんですが、神山から見た時も高専は新しかったわけです。小、中学校をつくっても、そもそも生徒が減っている中で取り合うことになる。高校をつくっても大学進学に自然と目が向く。なので社会に直結する高専は確かにいいなと意見が一致しましたね。高専は再発見して、再活用していくべきフォーマットだという気はします。

自分がやるのだったら自分にしかできないことをやりたいと思いました。グローバルリーダー育成みたいなものはいろいろなところが標榜している。当初は、グローバルリーダーではなく野武士を育てるんだ、と言っていましたね。

学生の成長を実感

──実際に学校が始まって、学生さんたちにお会いになられ、様子はどんな感じですか。

寺田 初めてのこと過ぎて、上手くいっているのかすらわからないです(笑)。15、6歳の年齢の、北は北海道、さらにロンドンから、南は沖縄まで。また学費を無償化しているので家庭環境も様々。高校進学時点でこの「神山高専」に決めた子は、すごくエッジが立っているんですよ。そういう子たちが全寮制で生活しているので、日々本当にいろいろあります。

ちょうど今週、学費無償化をサポートしている会社の人たちに来てもらって、学生が4人ずつプレゼンする機会があったんです。去年のサマースクールで中学3年の彼らのプレゼンも見たのですが、そこから比べて、とても上手くなっていた。すごいな、着実に皆成長しているなと思いました。

一方、僕が学校の理事長として高専に向き合うと、株式会社って本当によくできているんだなと思います。

──株式会社と学校の違いはどこに一番強く感じられましたか。

寺田 会社は成長していくことを所与としていると思うんです。だから、売上、利益、規模などがあって、そういうものによって滞らないものがあり、それぞれが自分の貢献と紐付けやすく、相互に評価しやすい。そして、成長せずに利益がなかったら死んでいく。

一方、学校組織そのものには成長は関係ない。売上、利益の概念はない。しかもそこに集うメンバーは先生、学生がいて、学生の保護者がいる。会社はいくら従業員が主役だと言っても、実際は自分たちの組織に力点があるわけじゃないですか。でも、学校は本当に学生が主役。その中で、「理事長って何をするべきなんだろう」と日々思っています。

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