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堀江慎吾:WBCで広報兼通訳として優勝に貢献

2023/10/25

  • 堀江 慎吾(ほりえ しんご)

    サンディエゴ・パドレス球団通訳

    塾員(1997政)。慶應義塾ニューヨーク学院(高等部)卒(1期生)。田中将大選手の通訳を経て現在ダルビッシュ有選手の通訳を務める。

  • インタビュアー遠田 寛生(とおだ ひろき)

    朝日新聞ニューヨーク支局・塾員

WBCでの貴重な経験

──ワールドベースボールクラシック(WBC)で堀江さんは日本代表チームの広報と通訳を担当されました。優勝した時の雰囲気はいかがでしたか。

堀江 優勝した瞬間は、侍ジャパンのダッグアウト横の階段にいました。大谷選手がトラウト選手を三振に取り「ヨシッ」と一瞬喜びましたが、その後は仕事モードに入りました。

フィールドで皆が祝福し合っているのを、一歩引いたところから見ていて、選手をインタビューカメラの前に連れていくタイミングを見計らっていました。優勝の喜びに浸る余裕はなかったですよね。

──栗山監督やダルビッシュ選手などから言われた言葉で覚えているものはありますか。

堀江 優勝後、栗山監督が会見を終えて2人でクラブハウスに戻る時、監督に「お疲れ様でした」と言ったら、一拍間があって、安堵の表情で監督が「ほっとしました」と一言おっしゃったのが印象に残っています。

宮崎キャンプから始まり、あれだけ日本中から注目され、相当なプレッシャーがかかっていたと思います。最高の結果で、多くの方々の期待に応えることができて本当にほっとされていたのだと思います。一瞬「僕もです」と言いそうになりましたが、それは言わずにおきました(笑)。プレッシャーのレベルが違いますからね。

──どのような経緯で代表のスタッフとして参加されたのでしょうか。

堀江 昨年のシーズン中に、MLB機構から代表の広報を、という話をいただいていました。ですが、WBCはメジャーリーグのキャンプの時期と被りますし、そもそもダルビッシュ投手がWBCに参加すると思っていなかったので、有り難い話だけど無理だと思っていました。でも、ダルビッシュ投手が参加する決断をしたので、球団とダルビッシュ投手から了承をいただき、仕事を引き受けさせていただくことにしました。

──日本代表チームには以前から特別な思い入れはあったのですか。

堀江 思い入れというのは、特になかったと思いますが、代表チームに関わる仕事をする機会は、なかなかないと思いましたし、いい経験になると思いました。でも、自分に務まるのかという、心配と不安が大きかったです。なので、侍ジャパンやオリンピック日本代表の広報もされた尊敬する先輩に相談に行きましたが、先輩は「大丈夫だから、できるから」と言葉少なくて(笑)。もう引き受けたわけですし、やるしかないと思って腹を括りました。

──本大会で堀江さん自身が学んだことはどういうことでしょう。

堀江 一丸となって戦うチームは強いということでしょうか。お互いがお互いを思い、支え合い、チームとしてまとまっていると、強いというのを実感しました。メジャーリーグでもスーパースターを揃え強豪と思われたチームが、シーズンでなかなか勝てないということがあります。やはり、チームとしてのまとまりというところは、大切なのでしょうね。

あとは、国際大会、国対抗の試合の盛り上がりや注目度を肌で感じながら仕事ができたことは大きな収穫でした。

大リーグ選手通訳の仕事

──パドレスでダルビッシュ有選手に付いていらっしゃいます。大リーグの通訳とは、具体的にはどのようなことをされているのですか。

堀江 主にダルビッシュ投手がメディアと話をする時の通訳をしています。ダルビッシュ投手は、英語がとても上手なので、込み入った話でなければ選手やコーチとの間のコミュニケーションには、あまり入る必要がないのです。何かもっとテクニカルな話になるような時に通訳に入っています。

通訳以外のところでは、日本からのお客さまのアテンドや通訳をすることもあります。オフシーズンに日本人選手獲得に動くようなことがあれば、そのアシストをすることもあります。

──初めて通訳をされたのは田中将大選手だったのですよね。

堀江 そうですね。ニューヨーク・ヤンキースで田中将大投手の通訳をやらせていただきました。田中投手は、初めてのアメリカで、入団当初はまだ英語が話せなかったので、球場では、常に一緒に行動をしているような感じでした。

──堀江さんとダルビッシュ投手はすごくお互いをリスペクトしているようにも見えます。どのようなことに気をつけてサポートされていますか。

堀江 やはり、選手が求めるサポートをするということでしょうか。どのようなサポートを必要としているのかを理解していくことは大事だと思います。選手によって求めるものは変わってくると思うので、サポートの仕方も自然と違ってくるものだと思います。選手がフィールドで最高のパフォーマンスを出せるよう、野球に集中できる環境を作る手助けができれば、と思ってやっています。

──シーズンが始まる前に、やってほしいこと、避けるべきことなどを話し合ったりするのでしょうか。

堀江 「これやってほしい、これは駄目」というような話をしたことはないです。毎日会うわけですからね。そこから感じ取っていくものではないでしょうか。

言うまでもないですが、ダルビッシュ投手も田中投手も野球に取り組む姿勢は真剣です。日々しっかり準備をして、4日、5日に1度の登板のマウンドにあがる。こちらは、その邪魔にならないよう、必要とするサポートをしていくということですよね。

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