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笹田珠生:米金融大手の日本代表を務める

2023/08/15

D&Iをどう進めるか

──D&I(Diversity & Inclusion)に笹田体制としてどのような工夫をして取り組んでいらっしゃいますか。

笹田 日本では、約30%の社員が外国籍であるなか、多様な人材が活躍できる場の構築に重きを置いています。例えば、5つの社員ネットワーク(女性躍進、LGBTQ、世代格差の解消、障害をもつ方へのサポート、介護・育児サポート等)を通じ、情報交換や社員の声が反映される仕組みを作っています。このような従業員ネットワークを通じ、社内のみならず、地域・コミュニティとも課題解決に向け協働しています。

D&Ⅰは本社CEOのブライアン・モイニハンを筆頭に取り組んでおり、会社としての多様性への取り組みの方向性を示すグローバル・ダイバーシティ&インクルージョン委員会(GDIC)の委員長を自ら務めています。私自身もこの委員会のアジア代表で、様々な活動を通じ、いかに会社がD&Iを経営戦略の軸に取り入れ、トップダウンでコミットしているかを感じます。

この委員会は四半期ごとに集まりダイバーシティに関わる議論を2日間実施します。部署ごとや国、地域別に女性比率、人種、性別ごとの採用、育成、離職率などのデータを分析する等情報交換の場となります。多様な人材から生まれる多岐にわたる考え方や意見に価値を見出し、社員が安心して自身の考えやアイディアについて発言をし、チャレンジする環境があることの大切さは、グローバルでも様々なプログラムや委員会を通じ議論されます。

──笹田さんはアジアの代表なわけですね。アジアは少し出遅れているということはありませんか。

笹田 意外とアジアは頑張っていると思います。中国では女性の従業員比率は高く、東南アジアも若い世代の台頭が目立ちます。女性躍進はアジア共通のテーマですが、国によっては人種差別等の課題もあります。因みにアジアでは、タイ、インドネシア、中国、インド、日本の5カ国の国代表が女性です。ちょっとびっくりしませんか。

──そうですね。自社の中にいろいろなネットワークがあるという先ほどのお話を聞いて、とてもいい取り組みで、同時にとても楽しそうに思いました。

笹田 はい。社内外のイベントも多く、最近では駒村さんにも弊社にお越しいただいた、同性婚で結婚の平等を勝ち取られたEvan Wolson 弁護士との対談(LGBTQイベント)もありました。他にも色々あり、年間50回程度のイベントを実施しています。

──業務ではなくて普段着でできるようなところがよいですね。

笹田 そうですね。新しい発見や学びにも繋がります。またネットワーキングの観点では、他部署の社員を知る良い機会にもなります。例えば、フロント業務の中には、テクノロジーやオペレーション部の人達との接点が少ない部署もあります。自分たちがビジネスを推進できるのは、管理部門のサポートがあるからこそと相互理解を深めることはガバナンス向上にも繫がります。

信用される金融機関とは

──最近、ESG(Environment、Social、Governance)など色々な取り組みがありますが、今、おっしゃったような取り組みだと、越えなければいけない壁を非常にしなやかに余裕をもって越えられている感じがしました。

笹田 Bank of Americaでは、金融危機後、現CEOのモイニハンが一貫して「責任ある成長」戦略を提唱してきました。金融危機における教訓を踏まえ、サステイナブルに成長することが質の高い結果をもたらすのだと。

また、近年ではコーポレート・スローガンの1つとして、CEOが社員に対して、“What would you like the power to do?” 「あなたは持つ力を何に使いたいですか」と問いかけています。変化が激しい環境下でも、どのようにお客様、社員、コミュニティ、その他の幅広いステークホールダーの金融人生を豊かなものにするのか。そのために企業が、社員がどうあるべきかという問いかけのなか、経営戦略の柱として実践しているD&Ⅰやサステイナビリティへの取り組みがあります。

──投資について、お金儲けだけではなく、その会社が付加価値をつけて社会に何を還元できるのかということまで考えていく流れが、今、出てきていますね。

笹田 はい。日本的に言うと「三方よし」に近い考え方がDNAとして会社のなかに存在しているとも言えます。金融機関としてお客様に寄り添いトラステッドアドバイザー(trusted advisor)として思っていただけるようなアドバイスを提供することが肝要です。

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