三田評論ONLINE

【話題の人】
笹田珠生:米金融大手の日本代表を務める

2023/08/15

  • 笹田 珠生(ささだ たまお)

    Bank of America在日代表、BofA証券株式会社代表取締役社長

    塾員(1991 法)。1998 年メリルリンチ日本証券(現BofA 証券)入社。2018 年取締役投資銀行部門共同部門長を経て19 年より現職。

  • インタビュアー駒村 圭吾(こまむら けいご)

    慶應義塾大学法学部教授

弁護士から金融の世界へ

──大変なご活躍ですね。今日までのキャリアパスをお話しいただけますか。

笹田 慶應在学中に塾派遣で豪州メルボルン大学に留学させていただいたことがきっかけで、最初のキャリアとして外国法弁護士の道を歩みました。卒業1年後に豪NSW州、その後米国NY州で弁護士資格を取得、メリルリンチ(現Bank of America、BofA証券)に入社する1998年までの3年間は、ニューヨークの大手企業法律事務所で勤務しました。

日本法ではなく外国法弁護士の道を選択したのは、日本の司法試験の合格率が低く、キャリアを開始するタイミングが遅くなる可能性が高かったこと、幼少時と中学時代の海外経験や高校・大学時代で留学を通じ英語環境に抵抗が少なかったことがあります。グローバルな職場環境であれば、女性がより働きやすく、チャレンジしてみたいという気持ちも大きかったと思います。

米国等での弁護士時代を経て、金融の世界に入りました。外資系金融機関で東京勤務、転職した1998年は、日本の金融機関の経営不安や不良債権問題が表面化され始めた頃で、金融界の再編が始まる直前でした。

また、尊敬していた祖母が女医で、彼女の生き方もキャリア選択に影響を与えたと思います。

──どうして弁護士から金融の世界に移られたんでしょうか。

笹田 法律の仕事が嫌になったわけではありません。米国法律事務所での仕事は、日本関連ビジネスが主で、日本の金融機関や事業会社がクライアントの中心でした。法務の見地からお客様をサポートするだけでなく、経営者の視点をもっと理解したい、企業側の視点での企業戦略や財務戦略についてもっと理解できるようになりたいなどの好奇心が高まり、転職への契機となりました。

メリルリンチから声がかかり、現地で最初のインタビューを受け転職しました。東京勤務で配属部署は投資銀行部門、日本企業のお客様の資金調達やM&Aをお手伝いする部署で、またゼロからのスタートでした。

──具体的にはどのような業務をされてきたのでしょうか。

笹田 投資銀行部門は企業の資本調達戦略の立案や執行をサポートしたり、合併や買収についてのアドバイスを提供する部署です。当初は私はメガバンクを中心とする金融機関のお客様を「インベストメント・バンカー」として担当していましたが、徐々に事業会社もみるようになりました。事業環境の構造的な変化が加速するなかで、お金の流れもグローバル化しており、お客様の事業展開や財務戦略について、国際的な視野で助言する仕事です。

日経新聞で取り上げられる案件に携わることも多く、機密性の高い情報を扱うため、情報管理の徹底等、内部管理上のガバナンス強化も常に求められます。様々なグローバル、国内案件を通じ、お客様と一緒にバンカーが成長できるビジネスモデルで、緊張感が高い一方で、ダイナミックでやりがいのある仕事だと思います。

私は入社当初、外資系大手金融機関なので、日本の職場も多様性が進んでいると思っていました。確かに会社全体を見渡すと、女性も多国籍従業員も多く、特に幹部レベルではダイバーシティが進んでいましたが、投資銀行部門は日本企業がお客様であり、女性が少なく日本的な企業文化を垣間見ることも多々ありました。今では女性バンカーも増え、お客様側もグローバル化に伴う人材の多様化が進み、環境も随分変わりました。

金融機関で女性がトップに就任

──笹田さんには、「女性」と「日本人」の2つのステータスがあり、それらは有利にも不利にもなりえますね。2つの属性はキャリア形成にどう働きましたか。

笹田 この2つのアイデンティティにこだわるのではなく、属性の強みをポジティブに活用することを心がけました。例えば、昇進して立場が上がると、部下に男性が増えます。男女かかわらず上に立てばチームをリードしますが、信頼関係が根底にある強いチーム作りは必須となります。仕事は1人ではできない。一緒になしとげる仲間の力は大きく、チームで成功体験をする。そのためには正しい軸を持ち、個々が強みとする機能を持ちあって力を発揮するインクルーシブなチーム作りとカルチャーの醸成が大切です。そのこと自体は男女や国籍とは関係なくできます。

また、お客様のグローバル化や事業の多様化に伴い、提案する側もより幅広い考え方が求められます。外資系ならではの海外ネットワークや知見をお客様には最大限に活用していただくために、海外の同僚とも信頼関係を築くことが求められます。このことも、日本人や女性という属性にかかわらず、ビジネス上必要不可欠な要素です。このことを私自身キャリア形成の過程で学びましたし、同僚たちに伝えています。

──そして日本の男性社会的な構造があるなか、在日代表および代表取締役社長にご昇進されたわけですね

笹田 就任は2019年でしたが、目の前のことから逃げないで一生懸命向き合っていたらこのような結果をいただいたのでしょうか。今の自分達があるのは、諸先輩方が作ってこられた確固たる日本における基盤と、社員達が価値観を共有しチームで生み出してきた実績の積み重ねの賜物です。いつも感謝の気持ちとお返ししたいという志をもっています。

2009年のグローバル金融危機時にBank of America がメリルリンチを買収、数年前にBofAに商号変更され、日本拠点は昨年で75周年を迎えました。特にこの10年は伝統的な証券会社から銀行へと戦略の大きな転換を踏まえた様々な変化がありました。

またここ数年は、新型コロナやロシア・ウクライナ戦争、米中問題等の地政学リスクの顕在化など、初めて直面する不測の事態のなか、金融機関としての在り方が問われていると感じます。

一方、今年6月には日経平均がバブル期以降33年ぶりに高値を更新するなど、日本市場も久しぶりに活況を呈しています。外資系金融機関の日本拠点は、お客様や社員の声を本社に理解してもらい、日本のプレゼンスを高めることが常に重要な課題です。

日本の社員の貢献と底力を可視化し、チーム・ジャパンのクレディビリティをアジア、グローバルにおいて向上させる努力を継続し、次世代に還元したいと考えています。

──日本の上場大手で女性役員ゼロの会社が29社、うち20社が今、株主総会で女性役員選任ラッシュだということです。BofA証券が社長、副社長も両方とも女性であるのは、飛び抜けて大きな出来事だと思います。そもそも社内に女性は多いのですか。

笹田 日本は約45%が女性です。女性の採用に関しては、新卒、中途採用共に意識しますし、また育成、保持にも力を入れています。例えば中途採用枠がある場合には、候補に女性がいるかどうかが、人事上も確認されますし、面接官に女性を入れる工夫もなされています。

金融機関として日本で初めて社長も副社長(林礼子氏)とも女性という人事が発表された時には、有り難い応援をたくさんいただきました!

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事