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浜 佳葉子:女性初の東京都教育長に就任

2023/07/14

  • 浜 佳葉子(はま かよこ)

    東京都教育委員会教育長

    塾員(1985経)。大学卒業後東京都庁入庁。選挙管理委員会事務局長、生活文化局長、水道局長などを歴任し、2022年より現職。

  • インタビュアー岩波 敦子(いわなみ あつこ)

    慶應義塾大学理工学部教授

大変だが楽しかった1年

──東京都教育委員会初の女性教育長に就任されて1年になりますが、この1年を振り返っていかがでしたか。

 都内の公立学校で学ぶ子どもは約100万人。東京の教育はとても範囲が広く責任も重い。今、子どもたちの教育をめぐる環境が大きく変わってきている中で、責任の重さを感じながらも、振り返ってみると大変でしたが楽しい1年を過ごしました。

やはり現場の先生方の教育への熱意、責任感は間近で見るとものすごいものがあります。その熱意や責任感がきちんと正しい形で都民の皆さんに伝わるように、都の教育委員会としてあるべき方向に進んでいくように、責任者として役割を果たしていきたいと思っています。

──楽しかったというのは、具体的にどういうところですか。

 教育業界は伝統を大切にしすぎているんじゃないかという印象を持っていたんですが、決してそんなことはなく、意欲的に新しいものに取り組んでいこうとしている人も多い。私は教育行政をやったことがないので、先入観なく「なんでこうしないの?」と言うと、「そういう考え方もありますね」と柔軟に受け止めてくれます。

「こういうふうにしてみたらいいんじゃない?」と、議論をしながら新しいことをやっていく雰囲気が組織の中にあります。少しずついろいろなところが変わりつつあることを日々感じられて楽しいです。1人でがんばっているのではなくて、皆も変わろうとしているのでやりがいを感じていますね。

組織で働くことの醍醐味

──浜さんのご経歴を拝見すると、都庁で本当に幅広いご経験をされています。やはりチームでやる仕事が多いのですか。

 そもそも私は、1人でできる仕事はほぼないと思っています。若い人たちにも、仕事は1人でするものではないので、そこを必ず意識してやるようにと話しています。振り返ってみて、「上手くいったな」と思う仕事も、私1人でできたわけではなく、後押ししてくれた上司や、一緒に協力してくれた人がいるからできたのだと思います。

今は、きっかけはこちらで作ったとしても、細かい詰めをやるのは担当者や課長、部長です。組織でする仕事は、そのようにチームでやることが面白いし、逆に大きな仕事はチームでなければできないと思います。それが、組織の中での仕事の楽しさ、醍醐味だと思いますね。

──そのように考えるようになったのは社会人になってからですか。

 そうですね。職場に入って3年目ぐらいの時、自分で始末がつかないぐらい大きな失敗をしました。途方に暮れていた時、上司や先輩がリカバリーしてくれたのですが、その時、「仕事というのは組織でやっているから、誰かが失敗しても組織としては結果的にちゃんと仕上がる。あなたは今は助けられたけれども、いつかは助ける側になる。組織で仕事をするというのはこういうことだ」と言われ、納得しました。

──私たちは男女雇用機会均等法施行(1986年)直前に社会に出ました。女性は途中で辞めてしまうことも多かった時代ですが、上司の方は浜さんを育てようという気持ちでおっしゃられたのですね。

 都庁はもともと長く勤める女性が多く、管理職になる人も多かったのですが、もちろん、そうではない人もたくさんいました。私のその時の職場の人たちは、幅広い仕事を任せてくれ、将来に向けていろいろなことをやらせてくれました。転機になったと思う職場の1つですね。

──いろいろなポジションで「女性初」と言われることが多かったと思います。東京都のジェンダー平等はどのような変遷がありましたか。

 都庁に入ったそもそもの理由が、民間企業では男の人と同じ給料をもらうためには男の人の倍働かないとだめ、という風潮の中、同じくらいやったら同じお給料がもらえるところを探したら公務員だと思ったからです。

都庁は、昇進するには公平な昇任試験があり、それに受かれば男女関係なくある程度のところまでは昇進できる。私が入った時も局長級の女性がいました。でもまだその頃は、女性が昇進するポストは決まっていて、限定的な女性活用の時代が長く続きました。私が管理職試験に受かった頃から、女性の合格者が増えて、ポストが足りなくなったので、この部署にも置いてみようかということが増えてきたのです。

今、私より少し後の世代は部長級の、局長級に上がる一歩手前ぐらいの人数も増えてきているので、これからは「たまたま女性」「たまたま男性」という感じになっていくと思います。

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