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辻󠄀 朋邦:元祖"カワイイ"文化の継承者として

2023/06/15

「みんななかよく」を本気で

──サンリオピューロランドでは2.5次元ミュージカルが上演されています。これも参加型の演出ですね。親から子へ伝わるだけではなく、世代も楽しみ方もさまざまに広がりますね。

辻󠄀 サンリオピューロランドは幅広い層の方々に来ていただけるようになりました。キャラクターだけでなく、俳優を目当てに来られる方もいるようです。最近ではアニメのアクスタ(アクリルスタンド)を持って、サンリオピューロランドを背景に写真を撮る方もいます。我々はエンターテイメントとして楽しんでいただく方法を提供しつつ、お客様のほうでも楽しみ方を考えていただくことで、来場者の幅も広がったと思います。

──そうした演出にも辻󠄀さんの心構えや改革の精神が反映されているのでしょうか。

辻󠄀 創業者である先代が長い間社長を務めてきた中で、素晴らしい文化が蓄積されてきました。やはり「みんななかよく」が我々の最終ゴールであり、これを体現するのが我々の役目です。

本気で「みんななかよく」の世界にしていこうと思うと、やはり本気で人を笑顔にしていく努力をしなくてはなりません。サンリオは良いものをたくさんつくり上げてきましたが、60年間やってきた中には良くない部分もあったと思います。

そこを改善しないと、なあなあ・・・・のままになってしまう。だから事業承継のタイミングでビジョンもミッションもバリューもつくり直し、従業員間でもしっかり笑顔をつくり出せているという実感を得られるようにしました。エンターテイメントの企業に進化させると申しましたが、「みんななかよく」を目指す上で、エンターテイメントのフィールドで今まで積み上げてきた良いものを昇華させたいと思います。

──辻󠄀信太郎会長の創業時から、「いちご新聞」の中の「いちごの王さま」は、人を思いやることや「平和」の大切さを繰り返し述べていました。投票で選ばれなかったキャラクターも生かす発想には、この精神が受け継がれているように思います。

辻󠄀 そうですね。エンターテイメントは時代の流れに合わせて変化する部分がありますし、消費者も進化します。我々もこうした変化に対応していきたいと思います。

笑顔をつくるというビジョン

──サンリオのキャラクターは海外でもたいへん人気です。新たなファンを獲得していくことについてお聞かせください。

辻󠄀 私が入社した当時は、欧米でもキャラクター文化が盛り上がっており、最も業績が良かった時期でした。海外のセレブにハローキティを身に付けてもらい、ブームが起こりました。さらにライセンスビジネスを強化し、事業の幅も広がりました。一方で、このことが本当の意味でのブランディングを考えさせられることにもなりました。

ライセンスビジネスを手掛けていると、ライセンシーの企業が店頭にハローキティの商品を並べてくれます。ですが、ライセンスビジネスの怖いところは、企業が「そのキャラクターはもう古い」となった途端にキャラクターを使わなくなるところです。キャラクターが店頭から姿を消すと、それを見た人たちは「どうしたんだろう?」と不安がり、急に下降線をたどることにつながります。

下降する時期はいずれ訪れるものです。それを抑えるためのプロモーションやイベントをしっかりやらなければなりません。ですが、こうした時に下支えしてくれるキャラクターが当時、ハローキティしかいませんでした。ライセンスの営業にリソースを投下し、その後でブランディングする選択肢に至らなかったことで、ブーム後に一度、下降線をたどることとなりました。

それを繰り返さぬよう、コロナ禍の間にデジタル面の施策を打ちました。その結果、再び「ハローキティいいね」と言われる流れができたように思います。今はライセンス事業とブランディングを循環させる手法に切り換えており、これにより、右肩上がりの成長が見込めるのではないかと思います。

──60年代から70年代のサンリオさんの展開を見ますと、当時からアメリカに行き、映画事業をやり、出版事業も手掛けるなど、早い時期からいろいろな事業を開拓されてきたことが窺えます。

辻󠄀 当時は映画や出版、テーマパークなど、いろいろな事業を手掛けていました。それも新しい笑顔の創出というビジョンに通じているように思います。

ハローキティのグッズを販売するだけではその周りにしか笑顔をつくれませんが、映画なら一緒に見に行くお父さんやお母さん、作品について話し合える友だちの間で新たに笑顔を創出できます。我々も今、同じように教育分野への進出を考えるなど、フィールドを広げていきたいと考えています。

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