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徳川家広:徳川宗家第19代当主となる

2023/04/14

慶應義塾での学生時代

──歴史を研究される上では日本史学がご専門の松方冬子さん(東京大学史料編纂所教授)も徳川家の方でいらっしゃいますね。慶應にも非常勤で来ていただいたりしていますが、お親しいのでしょうか。

徳川 冬子さんは田安徳川家ですので、親近感は強いですね。宗家の16代が田安家から養子に入っていますから。

──家広さんは高校まで学習院で学ばれた後、どうして慶應義塾大学に進学されたのでしょう。

徳川 私は帰国子女で、親から「せっかく英語ができる優位点があるのだから、大学受験にチャレンジしてみるのも良いと思う」と言われたのに背中を押されて、あちこち受験しました。

慶應と早稲田に合格し、周囲から「あなたは慶應が向いている」と言われ進学を決めました。こうして振り返ると、全然主体性がないですね(笑)。

──義塾での家広さんの指導教員は速水融先生だったのですか?

徳川 当時は日本史には興味がなく、西洋経済史の寺尾誠先生に教わっておりました。

──学生時代は文芸サークルに所属していたそうですが、今は歴史に関心が移った感じでしょうか。

徳川 そうですね。学生時代はSFやホラー、ファンタジーを熱心に読んでいましたが、今は歴史の本を読む方がはるかにおもしろいと感じます。SFにせよ、ファンタジーにせよ、どれほど壮大な物語を構築しても、素晴らしさ、悲惨さ、皮肉、意外性のどの点においても、現実の歴史にかないません。

私の学生時代の日本は安定と繁栄を満喫しており、現状肯定と楽観主義に溢れていました。そのような環境に違和感と窮屈さを感じていたので、SFやファンタジーにのめり込んだのかもしれませんが、現実の方がはるかに驚きに満ちていると次第に気づいていきました。

徳川流の情報発信

──今年はNHK大河ドラマ「どうする家康」が話題ですね。

徳川 今年はもう見ないわけにはいかないですね(笑)。初回は家康の生まれ故郷である岡崎市でパブリックビューイングが行われ、私もそちらで拝見しました。日本のことを知らない国の人が見ても楽しめるのではないかと思います。

家康役の松本潤さんは、頼りない感じがとてもよいと思います。なにか実態に近いように思えるのですね。松平・徳川家臣団の描写も、主君である家康を大事に思いつつ、ズケズケと言いたいことを言うというのは、実態に近いかと。そのような、仲のいいサッカーチームのような雰囲気ではなかったかと思います。

──今までとはちょっと違った家康像ですね。最近はYouTube「令和徳川チャンネル」で情報を発信されたり、江戸の町をメタバースで再現する「江戸バース」を監修されたりしています。

徳川 財団の認知度を高められればと、「どうする家康」放映が発表されるとともに準備を開始して、一昨年にYouTubeチャンネルを始めました。

メタバースの方は、コンピュータ・グラフィックス(CG)が登場した時から、江戸の町を3次元的に復元できないかと考えていました。世界の主要都市でかつての名残りが最も少ないのが江戸東京だという事情と、あと、時代劇の映画やテレビドラマは多くとも、大江戸を鳥瞰する画面というのは、少なくとも私は見たことがありません。

そうした私の積年の思いと、NFTやメタバースで良い材料を探していた方との偶然的な出会いから生まれたプロジェクトです。日本発の、日本人にしかできない、世界的なメタバースを目指しています。

──徳川宗家の当主としてこれからの抱負をお聞かせください。

徳川 抱負というほどのものは、ございません。戦後においては普通の人で、父も普通の会社員として頑張っていました。私の生き方は父のそれとは、とても違うものですが、まず日本人としてちゃんとしている、ということを心がけたいという点は同じだと考えております。家を続けることも、財団を運営していくことも、すべてその基礎の上に乗ってのことだと思います。

──本日は長い時間、有り難うございました。

(2023年2月8日、徳川記念財団にて収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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