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末吉里花:エシカルの価値を伝える先導者として

2023/02/16

  • 末吉 里花(すえよし りか)

    一般社団法人エシカル協会代表理事
    塾員(1999総)。フリーアナウンサーを経て、エシカル消費の普及啓発活動を行う。2015年にエシカル協会を立ち上げ、持続可能な社会づくりに貢献。

  • インタビュアー井本 直歩子(いもと なおこ)

    一般社団法人SDGs in Sports 代表理事・塾員

キリマンジャロ山頂での気づき

──末吉さんがエシカルという価値観に出会ったきっかけを聞かせてください。

末吉 じつは、大学時代は社会的な課題にほとんど関心がありませんでした。きっかけはTBS系列の番組「世界ふしぎ発見!」でミステリーハンターを務めた経験です。10年ほど関わり、秘境と呼ばれる多くの国や地域に行きました。その中で自分なりに世界に共通する問題点が見えてきました。それは「世界は一握りの権力や利益のために美しい自然や立場の弱い人たちが犠牲になっている」ということです。それまで何となく感じていたことに実際に現地で触れ、心が傷みました。

最大のターニングポイントは2004年にキリマンジャロに登頂した経験です。タンザニアにあるアフリカ最高峰で標高は約6000メートル。頂上部には氷河があるのですが、地球温暖化の影響で2020年ごろまでには完全に融けてしまうと言われていました。そこで、現地の状況を知るために取材に行くことになったのです。

──標高約6000メートル! とてもハードな登山だったのではないですか?

末吉 精神的にも肉体的に本当に大変でした。1900メートル地点にある小学校を訪ねた時に、子どもたちが木を1本1本、祈りながら植えているのを見ました。どうして祈っているの?と訊ねると「再び氷河が大きくなりますように」と。子どもたちは氷河が融けていることをわかっていたのです。氷河の雪融け水の一部は彼らの生活用水でもあり、それがなくなるのは死活問題でした。「私たちは登れないから、代わりにお姉ちゃんが見てきて」と言われました。途中、高山病で1度意識を失ったのですが、子どもたちの言葉に背中を押され、ビバーク(露営して休息をとること)して太陽が上がる時間帯に再アタックをかけました。

そうして無事に登頂できましたが、そこで目の当たりにした光景はショックでした。氷河は大きく減退し、100年前の1~2割ほどしか残っていなかったのです。同時に、頂上からの景色を見て地球はすべてつながっているとも感じました。日本で暮らす私たちも影響を与えているのかもしれない。そう感じて私は居ても立ってもいられなくなり、環境問題を解決する活動に取り組む決心をしました。

帰国後は自宅近くの海でゴミ拾いをしたり、環境NGO団体の手伝いをしたりしました。ですが、環境問題と言っても本当に幅広いんです。

──環境問題とひと言で言っても何から始めればいいか悩んでしまいますね。

末吉 「私1人の力で何ができるの?」ともやもやしました。そんな時に出合ったのがフェアトレードです。フェアトレードは途上国の人たちがつくったものを先進国が適正な価格で買い取り、労働者の生活改善や自立を支援する生産‐消費の仕組みです。これなら私にもでき、誰もが毎日の消費行動の中で実践できると考えました。ライフワークはこれだと思い立ち、取り組んでいる人たちのもとを訪ね、勉強を重ねました。

エシカル消費とは何か?

──SDGsやサステナビリティという言葉が広がり、社会課題への関心が高まっています。末吉さんが取り組んでおられるエシカル消費もその1つですね。

末吉 フェアトレードの取組みを始めた後、エシカル消費の考えに出合いました。「エシカル」とは、人や地球環境、学校、動物も含むすべての生き物、社会、地域に配慮した考え方や行動を指します。そしてこの考えにもとづいた消費行動が「エシカル消費」です。私もフェアトレードに限らず、エシカル消費の普及に取り組もうという考えに変わっていきました。

混同されやすいのですが、SDGsは人類が達成しなければいけない「目標」です。それを達成するには、人間の心のあり方がとても大事。エシカルはそれを支える哲学のようなものです。その精神のもと、SDGsの達成を目指す過程でサステナビリティの向上が実現される、と整理するとわかりやすいと思います。

エシカルは「倫理的な」という意味で、とても幅広い概念です。一般の人たちが今、社会や地球環境のために何かしたいと思っても実際はハードルが高い。だからこそ、消費行動を通してできることが大切です。エシカル消費は誰もが今日からできることです。

──フェアトレードの製品は価格が高くなるイメージがあり、少しハードルの高さも感じます。関心が薄い人にはどのように働きかけているのでしょうか?

末吉 試行錯誤していますが、価格が高いと感じる人はもちろんいるので、お金を使わなくてもできることを伝えています。例えば、自分自身の生活を見つめ直す「リシンク」という行動です。私は1度クローゼットの服をすべて取り出し、本当に必要なものかと改めて見直してみました。その結果、残ったものはストーリーのあるものや祖母、母から受け継いだものばかりでした。リシンクを通して、これからは本当に必要なものだけを買おうという意識に変わりました。

ゴミの量を測ることも大切です。生ゴミやプラスチックを分類し数値化してみるのです。ゴミもダイエットに似て測らないと減らせません。私はコンポストを始めるなどして、生ゴミの量を減らしました。まずは、自分の置かれた状況を考えて直してみることがエシカルな選択の第一歩になります。

フェアトレードの製品も、チョコレートなどは普通の商品と価格が変わらないものも出ています。再生紙や森林認証が付いたトイレットペーパーも値段が変わらなくなってきています。

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