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清水 真弓:トロンボーン奏者としてドイツで活躍
2021/04/15
転機となったウィーンへの留学
──大学院時代、留学したいと僕のところに語学の相談に来て、その後、ウィーンに行かれました。その期間に著名なトロンボーン奏者のブラニミール・スローカーさんに会って、音楽の道に行こうと決心されたわけですね。
清水 そもそも私は人生が行き当たりばったりなところがあり、ウィーン留学もきちんとプランされていなかったんです。私は日本で音楽大学に行ってないので、どこに行けばいいのか、どの先生がどこにいるのかも全くわからなかった。教えてくれる人もいない。そもそも正式な音楽留学ではなくて、語学留学にプラスレッスンをしてもらえるという形でした。
とにかく一度海外に出てみたいという欲求があった。加えて、自分はトロンボーンをやってきたので、なんとなく音楽と結びつけられないかという、本当にそれだけの、今から考えたらおそろしい感じの留学でした。
慶應理工学部の大学院生がトロンボーンを持ってウィーンにいるという状態は、「何、あいつ」という感じで、その肩書でプライベートでトロンボーンのレッスンを受けても、演奏会の出番も何もなく相手にされない。それでようやく音楽大学に入らなければダメだとわかりました。
そのような理由から音大を探して、見つけたところで、一旦ウィーンの留学プログラムを終えて日本に帰りました。1、2カ月後、受験のために再びドイツへ行き、合格したので、結果的に理工学部の大学院を中退することになるわけです。私の人生の中で、あまり「何かをやめる」ということがなかったので、これは新しい道で必死に頑張るしかないのだな、とこの時に、「音楽の道への決意」というか「覚悟」のようなものができたのだと思います。
──そうしてフライブルク音大では本格的にスローカーさんの指導を受け、また在学中にベルリン・フィルのカラヤン・アカデミーのオーディションを受けられたんですね。
清水 ドイツの場合、オーケストラの正団員のポジションを摑むためのオーディションを受けるには、招待状をもらわなければいけないんです。そのためにはまずいい先生につくこと、そして、もう1つオケの研修の経験があることが必要でした。
ベルリン・フィルにはアカデミーというシステムがあり、そのオーディションに受かると、アカデミー生、つまり研修生として2年間オケの中で経験を積むことができます。そこのオーディションを受けて受かったわけです。履歴書に書く上では、経験したオケの名前が有名であればあるほどいいので、ベストのアカデミーに入れました。
──その時に演奏家としてやっていけると感じましたか。
清水 やはり多少はありましたね。でも、ベルリン・フィルのアカデミーに入るイコール必ずいいオケに入れるではないというのをわかっていたので、入った後からも頑張って自分の実力でオケに入るしかないと自分に言い聞かせました。
──そうして正式な団員としてオーストリアのリンツ・ブルックナー管弦楽団に入団されます。その時、日本のオケに入ろうとは考えなかったんですか?
清水 あまり考えなかったですね。ヨーロッパのほうが雰囲気が合うし、ここにいたかったのと、日本はなんとなく受け入れてもらえる気がしませんでした。
柔らかいトロンボーンの音色
──清水君のリサイタルで初めてソロのトロンボーンを聴いて、「こんなに柔らかい音が出るんだ」と驚いたんです。清水君から見て、トロンボーンという楽器の特性というか、可能性はどんなところですか。
清水 それはとても難しい質問で、今も私はそれを探し続けている状態です。惹かれているところは、私自身がたぶんトロンボーンという楽器で一番音楽表現がしやすいからだと思います。
一方、これだけ長くトロンボーンと付き合っているからこそ、いろいろなところで難しさを感じます。トロンボーンの音だけを聴くことなど普通はない。オケで「今聴こえたかな」くらいでしょう。ただ、一度聴いてもらうと、「えっ、こんな音が出るんだ」と驚かれる。そういったいろいろな音を聴いていただく機会をどうやってつくっていくかを常日頃から考えています。
トロンボーンの一番の魅力は人の声に近いところと言われます。でも、どちらかと言うと、キンキンしたあまり心地よくない音というイメージを持っている人が多い。
本当はとても心地よい音で、いろいろな表現ができて、音のバリエーションが多いところが魅力だと思っています。
──日本のオケを見ても、金管は女性が少ないですね。
清水 最近は増えてきました。今、音大生レベルではすごく増えていて、日本は学生は女子のほうがたぶん多いと思います。ドイツは男子のほうがまだ多いと思いますが。
──金管にも女性が増えるのはいいことですね。ドイツでは、やはり音楽家は尊重されるのでしょうか。
清水 ドイツは他の様々な国と比べても音楽家に対する待遇は基本的にいいと思います。やはり文化が認められていてオーケストラ大国です。
例えば、アムステルダム、パリ、ロンドンといった有名なオーケストラでは、結局そういった大都市に住むと物価が高いので、給料は相対的にはそこまで多くないのですが、ドイツはちょっと特殊で首都のベルリンの物価が安い。最近は変わってきましたが、特に昔はベルリンは破格なぐらい住むのが安かったので、ベルリン・フィルの団員はもちろんのこと、良いオーケストラに所属していれば、かなり良い生活ができるようになっています。
──リンツでも今のオケ(南西ドイツ放送交響楽団)でも清水君は首席奏者ですね。首席奏者の役割とはどういうものですか。
清水 オーケストラの中で首席のポジションになると、指揮者とコミュニケーションを取り、指揮者が言うこととパートの人たちが言ってくることをまとめなければいけない時があります。
言葉だけ理解できても、きちんと人とコミュニケーションが取れなければならないので、そういうところはやはり大事です。
皆、それぞれの楽器のスペシャリストの集まりで、立ててあげないと、臍を曲げる人もいるので、それなりに気を遣いますね。
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