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柏倉 美保子:ゲイツ財団日本常駐代表として活躍

2021/02/15

変化の時代の企業価値のあり方

──確かに多くの国が自分の意思を強く出していく時代には、逆に日本的な全体の協調性を重んじるスタンスは、価値を帯びるかもしれないですね。今、柏倉さんが、日本のビジネスリーダーに期待されていることはどんなことでしょうか。

柏倉 日本らしい資本主義というのは、企業は社会の公器というか、社会のために商品やサービスをつくるという意識が日本の経営者の原点にあると思うのです。だから、コロナ後の企業価値や、中長期の戦略というのは、直近の株主や直接のステークホルダーだけではなくて、もっと広い地球規模の課題を含めて、どこに企業価値を伸ばし得るポテンシャルがあるのかを、今まで以上に考えていただけるとよいのではないかと思います。

もう今までのような大量生産、大量消費ではなく、今後は有限の資源を前提に社会価値のあり方を模索することにシフトしていくのだと思います。そのような企業価値のあり方を追求していくべきなのではないでしょうか。

ただ、社会領域など広いところで企業価値を発揮していくのは、一企業単体ではできないと思うのです。そこではやはり行政やNGOなど、その領域に関わるステークホルダーとパートナーシップを上手に組んでいくことが、企業の競争力にもつながっていくと思います。

──ゲイツ財団の強さは、自身でリスクを引き受け、一番難しい旗を振っているところにある気がしますね。

柏倉 まさしく企業や政府が投じられないリスクに、先行投資することが財団の役割です。例えばポリオの撲滅も、政治的な情勢が不安定な地にポリオのワクチンをどう届けていくかという困難な挑戦でした。

今年ようやくナイジェリアは野生株の根絶がWHOのお墨付きになりました。コロナの中でそういうハッピーなニュースがあったのは嬉しいことです。財団だからこそ追求しなくてはいけない役割はすごく大きいのではないかと思っています。

新しい時代の新しい価値観

──柏倉さんのようなキャリアをどのように積み重ねていけばいいのか。塾生や若い塾員の方に向けてメッセージはありますか。

柏倉 「これをやりたいんだ」という、自分の内側の声に耳を傾けるということは、すごく大事なことなのではないかなと思っています。これだけ時代が変わっていくフェーズですから、固定観念を取り払えるような発想で、本当に自分のやりたいことをクリアにできると、武器になると私は思っています。

振り返ってみると、私は1つの分野で専門性をあまりつくらずに、いろいろな分野を跨いできたところがあり、そこは結構強みになっているのかなと思っています。時代が変わる時は1つの分野にずっといるよりも、全然違うセクターとセクターを結ぶような役割が求められるのかもしれません。

この国際保健という分野もそうですが、私は自分があまり分かっていないところにポンと入ることにそれほど抵抗がないんですね。そこが自分が成長できる分野なんだとポジティブに捉えられれば、未知の分野というのは企業にとっても個人にとってもよい場所なのかなと思うんです。

──慶應義塾というのは長年日本の経済界に大きく根を張っている組織ですが、どのような貢献を社会課題に対してできると思いますか。

柏倉 海外では三田会が結構アクティブにいろいろな活動をされていますよね。これだけ外にネットワークを豊富に持っている大学というのは、日本では珍しいのではないかと思います。三田会のネットワークでグローバル社会と日本をつなぐことは、役割として大きいのではないかなと思います。

また、慶應の特徴として、新しい時代の新しい価値観を創出する人材が多いと思うのですね。SFCは「未来からの留学生」がテーマでした。次の時代の新しいものをつくるという視座を持ち、既存のものに捉われずに、自分が「これだ」と思ったものに対しては想像力豊かにイノベーティブなものをどんどん創出できる環境なのかなと思います。

──ご自分のSFC時代を振り返ってみていかがですか。

柏倉 もうSFC大好きだったんですよね(笑)。学問の仕方が新しくて、皆が何かしらテーマを持って、それをいろいろな分野から自分の課題に答えを出していくという場所でした。私の場合、テーマは国際協力、国際開発だったのですが、その他にも金融や企業論を始めとして、ありとあらゆる学問に触れられたことが、今の自分のキャリアに結び付いていると思います。

SFCの特徴として、この分野で何かをしたいということが明確な学生が多かったように思います。そうすると、皆、関心が全然違うんだけれど、議論していてすごくおもしろい。学ぶことが純粋に楽しいというのはSFCが初めての経験でした。

キャンパスにいる時間が長くて、研究会がなくても、なんとなくずっと鴨池でいろいろな話をしたり、「残留」と呼ばれる泊まり込みも楽しくて、皆とワイワイ、グループワークしながらお泊まりしている時間が一番楽しかった気がします。

──ますますのご活躍をお祈りしています。今日は有り難うございました。

(2020年12月21日、オンラインにて収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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