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柏倉 美保子:ゲイツ財団日本常駐代表として活躍

2021/02/15

  • 柏倉 美保子(かしわくら みほこ)

    ビル&メリンダ・ゲイツ財団 日本常駐代表
    塾員(2004 総)。投資銀行、ESG投資、世界経済フォーラム勤務を経て、2017年よりビル&メリンダ・ゲイツ財団初の日本常駐代表に就任。

  • インタビュアー琴坂 将広(ことさか まさひろ)

    慶應義塾大学総合政策学部准教授

SFC時代からの夢を初志貫徹

──柏倉さんは今、ビル&メリンダ・ゲイツ財団(以下ゲイツ財団)で、途上国の支援を中心に活動されています。柏倉さんと私は同級生ですが、SFCの学生当時、現在のお仕事は想像されていましたか。

柏倉 もうSFCのAO入試を受けた時から全部つながっていますね。AO入試で、私は、6歳の時にメキシコで物乞いをしてくる女の子と出会ったことを原点に、貧困のない世界をつくりたい、だから多角的な学問を学べるSFCで、社会を大きく変えられる答えを探していきたいと書いたんです。

──素晴らしい、初志貫徹ですね。今、ゲイツ財団でやられていることは、その人生の目標のど真ん中だと。

柏倉 初めてど真ん中、ストレートの仕事に就いたように思っています(笑)。今までのキャリアはシステムのあり方を変えようとしてきたと思うんですが、今は、まさしく社会貢献分野そのものに関わることができています。

──大学卒業後はどのようなキャリアを歩んでこられたのでしょうか。

柏倉 SFC時代に迷ったのが、JICAや国連など、いわゆる国際協力の分野に進むことが果たして社会に対して一番大きな変化をもたらせるのか、ということでした。そこで、私が出した自分なりの答えは、まず経済の仕組みを変えなくてはいけない、ということでした。会計や金融の仕組みを知って、それを変えていくことが社会課題解決のカギになると思い、最初に選んだのが金融業界でした。

証券会社で働きながら、アメリカの会計士の資格を取り、会計や金融の仕組みを理解しながら、これをどのように変革させると社会の格差や環境問題を解決できるのかと考えていました。そして、ケンブリッジ大学のMBAに留学したんですね。

当時、イギリスのチャールズ皇太子が「アカウンティング・フォー・サステナビリティ」、つまり、100年、200年先の地球を考えて、会計学を変えなければいけないとおっしゃっていた。そこで私はイギリスで社会的な価値の会計学の数値化を勉強して研究論文を書き、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の分野の方々とつながることができました。

私はやはりお金の価値観の定義を、変えていかなければいけないと思っています。今のPLやバランスシートは単一の価値基準で決まっている。でも、コロナ後の世界の会計学は、ESGのように、財務諸表の外にあるのではなく、もう少し企業価値のバリエーションの中に入っていくような時代になっていくといいなと思っています。

──柏倉さんが慧眼だなと思うのは、10年近く前にそういったことに気づいたこと。それがようやく受け入れられるように社会が整ってきたという印象を私も持っています。

ゲイツ財団のミッション

──今いらっしゃるゲイツ財団はどのような組織なのでしょうか。

柏倉 ゲイツ財団のミッションは、「あらゆる生命の価値が等しい」ということです。ビルとメリンダが結婚前にアフリカに行き、そこの子供たちは、先進国で治療や予防ができる病気なのに命を失っているという、「命の不平等」という事実に直面した。そこで、彼らの資産でどうやって貧困をなくせるかというミッションでできた組織です。

私はその日本の拠点で働いているわけですが、すごくやりがいを感じるのは、そのミッションが、日本の政府や民間企業、市民社会の力を生かして、日本から途上国の貧困層に向けて、ソリューションのパイを届けていけるということです。

大きな企業や政府とのコラボレーションが前に進むと、数字としてこれは何千万人のワクチンになるとか、何百人に届く製品になるという結果が出ることが、やはりすごく嬉しいです。

──ゲイツ財団はどれだけの規模で運営されているのですが。

柏倉 今、財団全体のグラント(助成金)は5兆3千億円ぐらいです。

──すごいですね(笑)。

柏倉 年間予算が約5千億円ぐらいです。しかし、今、地球上にある貧困問題を本気で全部解決しようと思ったら、大河の一滴にすぎません。そのためには先進各国や国連、世銀、アジア開発銀行などの国際協力のプレーヤー、現場のNGOなどの協力が必要です。

なので、ゲイツ財団単体ではなく、政府、民間、国際機関、NGOと、いかに戦略的なパートナーシップを組み、こちらでつくった戦略に基づいてどのようなインパクトを出していけるかということが財団の使命になります。

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