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遠野 遥:第163回芥川賞を受賞

2020/12/21

受賞までの道のり

――執筆はどの時間にされるのですか?

遠野 夜と土日です。徹夜は絶対しないですし、夜ふかしもあまりしない。日付が変わる前後の時間にはもう寝ますね。最近は取材も増えてきたので、時間が取れなくて、思うように3作目が進んでいない状況です。

――3作目は年明けには脱稿されるのですか。

遠野 1月末には出せたらなとは思っています。でも、無理して間に合わせることもないかなとも思っています。それで微妙なものが出てしまってもまずいので。

――大学時代に、これから小説をずっと書いていきたいと思われたのですか。

遠野 1作、2作書いて満足、っていう感じではなかったですね。新人賞に落ちて出版されていないものも含めると、今、8作書いているので、それだけ続けているっていうことは、何かあるんでしょうね、自分に合ってるっていうか。

――前に書かれたものを、発表していく予定もあるのでしょうか。

遠野 それは考えていないですね。やっぱり落ちたのには落ちたなりの理由があると思うので、そのままでは使えないし、それを使うとしたら大幅に書き直さないといけないと思うんですけど、それよりはたぶん1から作ったほうが早いと思うので。

たまに「このアイデアだけは面白い」というものはあるので、そこだけ抜き取って、使ったりすることはあると思いますけれど。

――文藝賞をお取りになった『改良』を書いた時は「これはなんかいけそう」と感じられましたか。

遠野 手応えはその前からあったので、『改良』が特別あったというわけではないんですね。毎回自分が面白いと思うものを出していたんですけど、それがなかなか認められなかったのが、逆に腑に落ちなかったというか。『改良』が特別優れているとは思ってないです。

――『破局』の場合はいかがでしたか。

遠野 『破局』は、デビューして編集者さんがついたので、それでよくなったのかなとは思います。やはり独りで、やみくもに何が面白いのかよく分からない状態で書いているよりは、自信を持って書けたところもある。あと『改良』より『破局』のほうが、肉付け部分を増やせたと思っていて、それが良かったのかなと。

人間一人の能力には限界があると思っていて、そこを信じ過ぎてはいけないなって思います。だから編集者や周囲の信頼できる読み手の意見は大いに参考にしたいです。

にじみ出るジェンダー意識

――お父さんも音楽家ということですが、基本的なところで世界観、人生の見方などに影響を受けられていると感じますか。

遠野 基本的に影響はほとんど受けていないと思っています。音楽を始めたのも、別に父の影響というわけではないですし、小説を書き始めたのもそうではないですね。連絡を取り合うようになったのも最近なんですよね。

――そうなんですか。父親的なもの、男性的なものの価値観がいいのかどうかという問題もありますね。遠野さんには今の世代の、男性優位社会の枠組みと違うような視点があると感じました。ジェンダーやフェミニズムの問題について何かお考えがありますか。

遠野 忘れてはいけないなというか、意識しておきたいと思っているのは、女性の中には、男の人が近くに立っているだけで脅威に感じたり、嫌だなと思ったりする方もいらっしゃる、ということです。そういうところが作品にも出たのかなとは思っています。

――『破局』に登場している麻衣子という女性が、社会に対して関わりを強く持っていて、自己主張がはっきりしているところにもそのへんを感じました。

遠野 そうですね。性の役割分担というのはもう解体していったほうがいいような気がします。たぶんそういった問題意識のようなものはあって、こういう形で小説にあらわれたということだと思います。もちろん、小説は私の思想や問題意識を伝えるための道具ではありませんが。

――『改良』の中では女装をする主人公の美しくなりたいという欲望が書かれていました。これもジェンダーの問題などを意識されて書かれたというわけですか。

遠野 意識して書いたというよりは、ふだんからそういうことに対する意識があって、それが作品にもにじみ出たということだと思います。

――遠野さんの執筆の舞台裏をお聞きできて、大変面白かったです。これからのご活躍に大変期待しています。今日は有り難うございました。

(2020年11月1日収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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