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大山エンリコイサム:ストリートアート発祥の地で創作活動を展開
2020/11/16
KeMCoでの制作
──大山さんが作られた作品を見ると、同じ黒であるにもかかわらず、油性の画材だなとか、墨を使われているのだなとか、そういったところの発見一つ一つが楽しいですね。
大山 同じ黒でも、墨の黒とエアロゾル塗料の黒とで全然違います。墨というのは液体なので、伸びがいいんですね。黒いペンキを水で溶かすと、水で溶いた分、すごく薄まって、のっぺりとした黒になってしまう。だから、同じ黒でも全然違うし、しかも単に色として違うだけではなくて、実際にかくという行為の中での機能性やテクスチャーという面でも画材ごとに違うわけです。
例えばこのKeMCo(慶應義塾ミュージアム・コモンズ)の作品《FFIGURATI#314》はエアロゾル塗料でかいていますけれど、スプレーというのは噴射システムのことで、中にあるのは油性の塗料です。しかし、筆で塗るのではなくて、ガス圧の噴射で吹き付けているので、同じ油性塗料でも全く違ってくる。
また、同じ作品の黒でも、どの素材にどう吹き付けてそれを背景が黒い状態で見るのか、光がある状態で見るのか、揺れているのか止まっているのかでも違って見えるわけですね。
──ちょうど今、後ろにある作品を取り上げていただきましたけれど、この作品について簡単に解説していただいてよろしいでしょうか。
大山 これはKeMCoに依頼されてつくった作品なのです。もともと、このKeMCo StudI/O というのがデジタルファブリケーションのための様々な機器が入っている学生が使う部屋で、奥が暗室になっていて、こちら側の空間と仕切るための何かしらの機能をもった作品を作ってほしいという依頼でした。
その中で、カーテンというアイディアが出てきました。僕自身もちょうど、空間を仕切ったり、仕切られた空間で揺らいでいたり、片側から逆側が透けて見えるようなレイヤー性といったことに関心があったのです。
カーテンは動かして重なったり、片側が閉じると蛇腹状に起伏が生まれたり、いろいろな見え方をするので、この建築が使われる中で、作品の新しい見え方がどんどん発見されていけばいいなと思っています。
──KeMCoに対してどのような期待がありますか。
大山 三田キャンパスに、リアルな文化財の展示と併せてデジタルなクリエーションもでき、芸術や文化をアーカイブしたり研究したりする本拠地ができたというのは素晴らしいことだと思います。
慶應義塾は歴史のある大学で、いろいろな遺産があるので、それを新しい拠点でデジタルとリアルの両面から考え、どう生かしていくのかということに、すごく期待しています。
──今後のますますのご活躍が楽しみです。今日は有り難うございました。
(2020年10月2日、三田東別館KeMCo StudI/O にて収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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