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野澤 武史:「スポーツを止めるな」でコロナ禍の高校生を応援

2020/10/15

  • 野澤 武史(のざわ たけし)

    一般社団法人「スポーツを止めるな」代表理事・塾員(2002 政)。
    山川出版社代表取締役副社長。元ラグビー日本代表。日本ラグビー協会リソースコーチ。ラグビー解説者としても活躍。

  • インタビュアー野村 周平(のむら しゅうへい)

    朝日新聞スポーツ記者・塾員

コロナ禍の高校スポーツを助けたい

──野澤さんは、このコロナの問題が噴出してから、高校生のスポーツを救うべく、「ラグビーを止めるな」という活動を始められ、それが「スポーツを止めるな」に輪が広がりました。どういう思いで今回の活動を始められたのかをお聞かせください。

野澤 僕は日本ラグビー協会のTID(Talent Identification and Development)、タレントの発掘と育成が役割のリソースコーチ担当として、全国を回ってきたのですが、今年3月の熊谷で行われる選抜大会が中止になってしまった。選抜大会というのは新3年生のお披露目大会で、大学側がこぞってリクルートをしに来る大会なんです。

それで、大学のリクルーターから私に「困った」と問い合わせの電話がきて、高校の現場の先生からも、「全然進学先が決まらない」と話があった。これは何かやらないといけない、と思いました。それで、塾蹴球部同期の最上紘太君などと話をし、彼が早稲田のバスケ出身の田中有哉さんに話をつなぎ、5月14日に「ラグビーを止めるな」「バスケを止めるな」をスタートさせたんです。

──どのようなことを始めたのでしょうか。

野澤 高校生が自身のプレーのアピール動画を作成し、「#ラグビーを止めるな」のハッシュタグをつけてツイッターにアップすると、それを有名選手やラグビーファン、大学関係者がリツイートして進学のチャンスにつなげるという仕組みです。ラグビーのほうは5月20日にNHKの「ニュースウオッチ9」で取り上げてもらい、飛躍的に投稿が伸びました。

そのうち、他のスポーツの仲間に話を聞くと、うちもかなり困っている、一緒にやりたい、と言う。そこで5月30日に「スポーツを止めるな2020」というトークイベントを、スポーツコーチングJapan代表理事の中竹竜二さん(元早稲田大学ラグビー部監督)のところで、競技横断でウェビナー形式でやったんです。バレーボールの大山加奈さん、柔道の羽賀龍之介君などが出てくれました。

このイベントで1つ形ができたんですね。その後、夏の甲子園が中止になった日に松坂大輔さんが、スポーツ紙のインタビューで、「ラグビーを止めるな」という活動が生まれているけど、野球はやらなくていいのかと話をされて、この流れがスポーツ界全体に広がっていったんです。

機会の平等を作りたい

──小さな石礫がどんどん広がっていく感じを、僕も近くで見ていて感じました。他競技の人から、ラグビーは高校生、中学生などのコーチ間の横のつながりがものすごく強い、と言われますね。

野澤 今、ラグビー界にはシステムとして、全国9ブロックごとに若いコーチを育てていく環境があり、僕はこれまでタレント発掘とリソースコーチ兼任でひたすら週末に全国を回ってきました。

そこで地方の高校の先生と会って、夜はお酒を呑みながら、日本のラグビーの将来のことなどを話し合っているうちに、高校のジャパン(代表)に選ばれる選手以外にも良い選手が埋もれているということにだんだん気づいたんです。そこで全国から情報が集まるように、仕組み化していきたいなと思いました。

僕は慶應でずっとラグビーをやってきましたが、慶應だと家庭の事情によって部活をやめなければいけない子はいない。でも、そんな話は地方に行ったらざらにあるんです。そういうことを目の当たりにして、結果の平等は作れないけれど、機会の平等は作ってあげたいと思うようになったんです。

──ラグビー界の中での課題に気づかれて、それが今回のことにもつながっていると。

野澤 ラグビーは他のスポーツに比べてエスカレーション率(次のステージで競技を続ける割合)が高くて、高校の選手は大学でも20%以上がラグビーを続けるんです。でも、その過程がブラックボックス化、属人化されていて、超強豪校でない選手がトップレベルでやるのはハードルが高いんです。

例えば、九州にすごくいい選手がいたんですが、ケガがあって、代表チームから漏れてしまった。すると授業料免除などの特待生の枠に入れない。なので、親の意向もありラグビーをやめることにしたと。「それはないよ」と思いましたね。こういった不条理なことが起きないように、仕組みでなんとか変えてあげたいと思ったんです。

慶應のように恵まれた環境で僕はやっていたので、これが当たり前だと思っていたのだけれど、世の中の当たり前ではない。自分が良い環境でやらせてもらってきたことを、どこかで返していかなければいけないという気持ちがあるんです。

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