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平田 麻莉:自律して働くフリーランスの声を社会に届ける

2020/07/15

緩やかなつながりのプラットフォーム

──「自分の責任において」ということは大事。でも、1人で責任を被りすぎないことも大事ですね。

平田 われわれがフリーランスのセーフティーネットの整備やコロナ禍での緊急支援策などを言うと、必ず自己責任論が出てくるんです。自分で自由な働き方を選んだのだから、そこで苦しむのも自分のせいだろうと。

もちろん、事業リスクについては自己責任ですが、今回のコロナの影響は個人が背負える事業リスクの範疇を超えています。また、健康や出産、介護などのライフリスクは、働き方を問わず皆が背負っているリスクです。そういうリスクを社会保障や共助の形のセーフティネットで補い合うことに、人類がコミュニティをつくってきた意味があると思うんですね。

インド人の教えで、皆迷惑をかけるのだから自分がかけられても助けてあげなさい、という話があります。本人の責任でやるけれど何かあったらサポートするよ、というつながりや拠り所、信頼関係があることは大事です。

そういう意味では慶應の縁もとても有り難いものです。何の看板も背負わない無名のフリーランスでも学生時代の恩師や友人などに応援していただき、フリーランス協会の運営の中でもずいぶん助けられてきました。

──プロフェッショナルとして自己責任を持つことは大事だけれども、それを皆で分かち合う、支援し合うのが協会だということですね。

平田 はい。必要な人が必要な時に必要なだけ頼ってくれるようなプラットフォームになれればと思います。まさにグラノヴェッターの弱い紐帯の理論のように、緩やかなつながりが理想ですね。

一方、キャリア自律をビジョンに掲げている手前、1人ひとりが能動的に関わることに意味があると思っています。こちらがお膳立てをして、人生100年時代だからスキルを磨こうねとか、副業しようねと言ってもあまり意味がないと思っています。

「転んでもただでは起きない」

──平田さんは「根拠のない自信」という言葉をよく使われる。これをキャリア論的に考えると、世間一般の常識的な見方ではなく、自分はこれが大切だという、自分なりの自己肯定感をベースとした根拠を持っているんです。

平田 確かに、周りからどう評価されているのかには興味がないというか、自分との戦いが好きなタイプなんですね。誰かに喜んでもらえたり役に立てたとか、昨日の自分より少し成長できたとか、自分自身で手応えを感じられる時が何より嬉しいです。

一方で根拠のない自信と同じぐらい、根拠のない不満も常にあります。常に自分にシビアな目を向けてしまうというか、安住したくない。根拠のない自信と根拠のない不満が同時にあることが原動力になっていると思います。

──これから平田さんが歩んでいこうとしている行先はどこなんでしょうね。

平田 フリーランス協会は、サステナブルなインフラにしていかなければと思っています。保険という意味でもそうですし、しっかり会員も増やしていきながら、いつ自分が倒れていなくなっても大丈夫な事務局の組織基盤も確立したいです。

私は元々、基盤が整って今掲げている政策課題がある程度解決したら交代をするつもりで設立しています。もちろん創業者の責任を持って1人の理事としては関わり続けるでしょうが、周りから見える自分の肩書や役割が規定されて、代表の座に安住するのはやっぱり違和感があるんですね。「ゼロイチ」(ゼロからイチをつくり出すこと)が好きというのもあります(笑)。

最近、個人事業や協会の仕事とは別に、慶應同期の仲間たちとアークレブという新たな法人も設立しました。慶應理工学部准教授の浅井誠さんが代表で、産学連携支援を行う会社です。それこそプランドハプンスタンスで、これからも様々なご縁があると思っています。必要としてくれる人がいて、やりたいと思った時にいつでも飛び込める自分でいたいです。

──プランドハプンスタンスはチャレンジだから、失敗もあるし成功もある。たとえ失敗があっても、転んでもただでは起きない。そこから成長が生まれ、転んでも自分が大きくなっていきますね。

平田 確かに、転んでもただでは起きないタイプと、よく言われます(笑)。

──キャリア自律や自己肯定感は慶應の理念、独立自尊そのものです。慶應は150年以上前からキャリア自律を言っていた。

平田 独立自尊という考えからは本当に影響を受けていると思います。

今、70歳までの就業機会確保の議論の中で誰もが定年後にフリーランスになり得る。世代を問わずいろいろな人が雇用関係によらない働き方に向き合う時代になっている中、協会の役割やサポートもどんどん領域を広げていけたらと思います。

──有り難うございます。ぜひ頑張ってください。これからの平田さんの歩み、とても愉しみです。ますますのご活躍、期待しています。

(2020年5月12日、オンラインにより収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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