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平田 麻莉:自律して働くフリーランスの声を社会に届ける

2020/07/15

  • 平田 麻莉(ひらた まり)

    プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会代表理事

    塾員(2005 総、2011 経管研修)。在学中に創業期のPR会社ビルコムに参加。17 年より現職。日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2020」受賞。

  • インタビュアー花田 光世(はなだ みつよ)

    慶應義塾大学名誉教授

「フリーランス協会」の役割

──まずは「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」のご受賞おめでとうございます。平田さんがやっていらっしゃることの社会的な価値とインパクトが認められたということだと思います。

平田 先生におっしゃっていただくと嬉しいです。私などには過分な賞で恐縮なのですが、受賞がきっかけで協会のやっていることや、フリーランスの存在に少し光が当たるなら有り難いことです。実際にフリーランスの方からもすごく励みになったという声もいただきました。

──『三田評論』の読者はフリーランスや「プロボノ」(知識・スキルや経験を活かして社会貢献するボランティア活動)のことをご存じない方も多いと思います。少し活動をご紹介いただけますか。

平田 私自身たくさんの名刺を持って働くフリーランスという働き方を10年以上してきています。基軸になっているのは広報ですが、文化人のマネジメントや出版物のプロデュース、ビジネススクールのケース教材制作などもしています。

今、人生100年時代と言われ、1億総活躍で定年退職後の方や女性も長く働き続ける社会ですから、多様で柔軟な働き方が求められています。また、企業側も、人材不足が深刻になり、人・モノ・金の中で人が一番の希少資産になっていく中、「人」の部分を皆でどうやってシェアして最大限使っていくのか。その時に、いわゆる囲い込む形の雇用にこだわらない、業務委託でのプロジェクト型の人材活用がますます広がってきているのです。

しかし、そのような働き方には、まだ社会保障や契約ルール整備などの課題があります。そこで、フリーランスの課題、ニーズを窓口として集めて、大きな声として届けていく存在が必要かと思い、2017年1月に協会を設立して活動しています。

──そもそもフリーランスの語源は傭兵から来ていますよね。王や国に属さないで、腕1本で馳せ参じて、専門プロフェッショナルの力を発揮して自由に渡り歩く。その現代版ですね。

平田 協会設立当時はメディアからもフリーターとどう違うのか、とよく質問されました。協会では広義のフリーランスを「特定の企業や組織に専従しない、独立した形態で自分自身の知見やスキルを提供して対価を得ている人」と定義しています。つまり、会社の看板ではなく自分の名前で仕事をしている方、雇用ではなく自営や業務委託で働くスペシャリストです。

自律したプロとして

──私がいいなと思うのは、「プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」と名乗っているところ。それはプロでなければいけないという意識から来ているんですよね。

平田 実はそこがこだわりのポイントなのです。「プロフェッショナル」でなければ、下請け的な存在としていいように使われてしまうおそれもある。そうではなく、「自律したプロ」として顧客と対等なパートナーシップを築き、きちんと社会やクライアントに対してインパクトを出していくことが大事です。

協会は「誰もが自律的な働き方ができる世の中へ」というビジョンを掲げていて、そのための選択肢を整え、支援していく活動をしています。

──もう1つ「パラレルキャリア」も名乗っていますね。

平田 はい。今後は複業がもっと当たり前になっていくと思うんですね。私自身、今でこそ時間の8割以上は協会の代表理事に割いていますが、フリーランスの当事者として個人の事業も続けています。

1つだけの組織にいると、そこの価値基準がすべてのように思ってしまいがちですが、場所が違えば価値基準が違う。客観性やバランス感覚を保つ上でも多様性の中に身を置くことは意味があると思っています。帰属意識は掛け持ちできますから。これからの個の時代に備えて、多様な経験を積むことは自己投資にもなります。

また、複業はリスクヘッジにもなるんですね。今回のコロナ危機のような有事の際、収入源や取引先を分散しておいて良かったという声も聞きます。

──パラレルキャリアというのはドラッカーが言い出した言葉です。これからの社会では企業の寿命はだんだん短くなり、個人のプロフェッショナルとしての寿命のほうが長くなる。だからパラレルキャリアは副業とは違い、自分の持っている力を、組織を超えて、ネットワークを使っていかに社会貢献していくかということですね。

平田 おっしゃる通りです。協会でも「複業」と、いわゆるサブの意味の「副業」を使い分けています。フリーランスはもともと複数の顧客と取引しており、業務の配分は顧客のタイミングや状況、自分のキャリアステージやライフイベントによって常に変わっていきます。どちらかがメインとかサブではなく、戦略的にポートフォリオを分散している。

キャリアデザインといってもコントロールはできませんから「プランドハプンスタンス」(計画された偶然)で成り行きの側面も大きいですが、キャリアを複線化しつつ柔軟にポートフォリオを組み替えていくことが、今後はフリーランスだけではなく会社員の方も必要になってくるのではないかと思います。

──もう1つ、「プロボノ」というのは、プロとしての本業のスキルをどのようにボランティア活動として社会に役立たせていくかということですね。

平田 はい。協会は今、全国に40人強メンバーがいますが、私も含めて皆プロボノです。社会貢献にもなりますが、結果的に経験や学びにつながり、自分にも返ってくる。私の場合、ソーシャルインパクトにこだわっています。

私は母子三代カトリックの女子校育ちで、成人洗礼も受けているのですが、中学生の多感な時期に、宗教の時間に「タラント」に関する聖書の話があったことをよく覚えています。

タラントはタレント(talent)の語源ですが、誰でも何かしらのタレントを絶対に持って生まれてきている。それを使って社会に役立たせなければいけないと教えられました。それ以来、「自分のタレントを使ってどうやってインパクトを遺すか」をずっと考え続けています。

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