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後藤佐恵子:はごろもフーズ社長に就任

2020/04/15

多様性を力にする

──最後のキーワードは「女性」ということですね。

後藤 私が女性だからということだけではなく、性別に限らず多様性はすごく大事なことだと思っています。これもアメリカで学んだことですが、国籍や人種、物事の考え方などいろいろな価値観を持った人がお互いに知恵を出し合い、より良いものを作っていくということは、とてもパワーがあり、いい成果に結びつくのだと思っています。

その中で、まず当社で取り組んでいきたいのは、女性の積極的な登用です。もちろん、産休、育休といった制度を整え、仕事に復帰してからもできるだけ仕事が続けやすいような環境づくりを常に考えています。私自身、自分の経験から切実に感じた時間単位での有給休暇の取得制度を今年から始めたいと思っています。

また、これから取り組むこととしては、社内で女子会もやりたいと思っています。これは決して男性をないがしろにするということではなく、やはり少数派の人たちにはそれなりに手を差し伸べる必要があるということです。

私自身、女性に生まれてよかったと思った最大の出来事は、ビジネススクールへの留学なんです。アメリカはアファーマティブ・アクションという考え方があって、多様性を確保するという観点から、日本人でかつ女性でファミリービジネスのスペックということで、私はスタンフォードに留学できたのですね。

ですので、女性が少数派である間は、女性が活躍していることが、男性にとってもいい結果につながると信じて、女性同士の悩みを話し合うオフサイトミーティングのようなことをやっていきたいと思うのです。

女性ならではの経営視点

──後藤さんは上場企業の女性の社長という、数少ないお1人になったわけですが、家庭人の目線から経営者としてやっていきたいことは何でしょう。

後藤 社員のお子さんを対象にした工場見学会のようなことをやりたいと思っています。一緒に働いている社員は、広い意味で皆、ファミリーです。そのお子さんたちに、シーチキンがどうやってできて、お父さん、お母さんの会社ってこんなに社会に役立つものを作っているんだよ、と知ってもらえれば、仕事がしやすくなるかと思いますし、お子さんに対して、また社会に対しても誇りが持てると思うのです。

また、社員を対象にした調理実習研修もやりたいです。当社の営業パーソンは毎日シーチキンを売ったり、パスタサラダメニューを提案していますが、実際に自社の製品を使って料理を作ったことがあるかというと、なかなかそういう機会が少ない社員もいると思うのですね。

私もそこに行って、一緒に調理を通して社員の人と直接ふれ合いながら話ができたらいいなと思っています。

──社員を大事にしているという思いがすごく伝わりますし、細やかな女性らしい心配りのイベントですね。少し大きな観点から考えていらっしゃることがあれば教えてください。

後藤 私は恩師や友人などに恵まれ、様々な成長の機会をいただいて、ここまでこれたと思っています。それを、これからようやく社会に恩返ししたいと思っています。

慶應でも本当にたくさんの先輩方にご馳走していただきました(笑)。今までの人生、もらったもののほうが多くて、バランスが取れていないような気がしているので、どこかでこの借りを返さなければと思っています。やはり私の場合、それははごろもフーズでの活動を通して還元していくということだと思っています。

社会が今、抱えている課題、例えば少子高齢化や環境、災害対応の問題、あるいは1人で食べる子の「孤食」や子どもの貧困の問題など、食をめぐる社会の課題が色々あります。そういった課題を、1つでも会社の活動を通して解決するお手伝いができればと思います。

──最後に後輩塾員へのメッセージをお聞かせいただけますか。

後藤 本音を言えば、女性が社会で活躍するためには、職業選択よりもどんな価値観を持った男性と結婚するかが、一番大事かなと思うところもあるのです。私の場合、有り難いことに、夫が私のことを一番理解し、応援してくれています。そして、妻が社会で活躍することを自分のことのように喜んでくれます。また、夫の両親も子どもが風邪を引いたときなど最大限に支援してくれていて、とても感謝しています。

同時に、人生は有限なので、限られた時間でどうやって何に時間を使うかということをよく考えたほうがいいとも思います。1人の人間として何をしているときが一番幸せなんだろうと。

仕事をしているときなのか、子どもといるときなのか、旦那さんといるときなのか、趣味を楽しんでいるときなのか。そうすると、譲れないものや、今どうしてもやらなくてはいけないことが見えてくると思います。そして、やりたいことは先延ばしせずにやったほうがいいと思うのですね。

──謙虚でありながら、いつも前向きでパワフルな生き方はとても魅力的ですね。これからの後藤さんのますますの活躍を期待しています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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