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名執雅子:女性初の矯正局長として活躍

2020/02/17

  • 名執 雅子(なとり まさこ)

    前法務省矯正局長。塾員(1983 政)。大学卒業後、法務省入省。矯正局総務課長、大臣官房施設課長、官房審議官、人権擁護局長等を経て、2018年9月に矯正局長。

  • インタビュアー太田 達也(おおた たつや)

    慶應義塾大学法学部教授

矯正局の役割

──今日は2018年に女性初の矯正局長に就任された名執さんにお話を伺います。まず、法務省矯正局とはどういうことをする部署でしょうか。

名執 矯正局は、刑務所や拘置所、少年院、少年鑑別所という矯正施設の管理をしているところです。支所まで含めると全国で約300の施設があり、矯正局はその全部を所管します。

職員は2万4千人弱ですが、そのうち男性が約9割、収容者も男性が約9割です。収容者は、今は5万人程度で、平成18年をピークにして減少傾向にあります。ピーク時は8万人を超えていました。大分減ってきたという感じです。

矯正施設というのは一般にあまり馴染みがないところだと思いますが、犯罪者を最後に処遇して、また社会に戻すという、国の治安を支え、安心安全を支える最後の砦とも言うべきところだと思っています。

──刑務所の役割というのは、あらためてどういうものか教えてください。

名執 もちろん刑を厳正に執行するということが第一ですが、中にいる間に、受刑者が被害者に心から申し訳なかったと思い、社会に出たら、もう二度と罪を犯さずに生活しよう、という思いを持たせるようにしなければいけません。そのため、懲役刑としての作業以外に、最近では、積極的に職業訓練を行ったり、犯した罪や本人の問題性に応じて各種の改善指導を行うことで、更生の意欲を持って社会に出てもらうよう働きかけを行っています。

十数年前では考えられなかったことですが、現在は、刑務所の中で出所後の仕事の採用面接をして内定を出してもらい、社会に出たらすぐ仕事に就くことができるような就労支援も行っています。障害があったり高齢の受刑者には、出所後、福祉的な手当につなげる支援も行うようになりました。

──一般の人はそういうことを知りませんね。刑務所というと、いまだに鉄格子の中に閉じ込めておくところというイメージがあると思います。最近は市民への広報も積極的ですね。

名執 その通りです。平成15年に大きな刑務所改革が始まって以降、刑務所の役割や出所者の状況をわかってもらおうと、「開かれた矯正」を旗印に、外部に向けて積極的に情報を出すようになりました。

二十数年前の刑務所は、外の人に全く見せていなかったんですね。見せないことで受刑者の人権を守るというか、社会に見せるものではないという感じでした。

でも、それだと結局、社会の人にとっては、裁判での判決以降はブラックボックスで、何も知らないということになる。知らない世界のことは誰も関心を持たないし、刑務所から出てきた人が再犯しないために、どうしたらよいか、もわからないわけです。そこで、ある程度見せていこうとなったんです。

──今は民間と協力して運営することもあるようですね。

名執 はい。同じ平成15年には、PFI手法を活用して、刑務所を民間とともに運営していくという方針も出されています。

受刑者を立ち直らせるには

──罪を犯した人を立ち直らせるのは非常に大変な仕事だと思います。どのようにして人を立ち直らせていくことができるのでしょうか。

名執 私は、明治以来の監獄法を改正するための作業が始まった平成16年以降、新たに刑務所に導入する改善指導の仕組みと、そのプログラムをつくる仕事を取りまとめました。その時、チームのメンバーに、「嫌がる大人(受刑者)を連れてきて、学びへの意欲を持たせ、その人の考え方や行動を変えようという教育は誰もやっていない。その仕組み作りに挑戦しよう」と言いました。

罪を反省して、立ち直りの意欲を持たせることもそうですが、例えば性犯罪や薬物事犯、凶悪犯罪から窃盗に至るまで、罪種に応じた特別な指導を行うことも改善指導の重要な内容です。

そういった指導の際には、本人の資質を調査し、犯罪の内容から必要な矯正処遇を計画し、改善指導等を実行していく。そして、指導の集積を分析してプログラムのさらなる改善につなげていくというサイクルが大事だと思っています。

──矯正局は、少年院も所管されています。非行を犯した少年の中には非常に不遇な環境で育ったり、親に虐待されたような少年も多いと聞きます。

名執 少年の場合、本人の問題だけでなく、おっしゃるように、虐待やいじめなどで、学校からも、地域や家庭でも疎外されてきた不幸な生い立ちが非行の背景にある場合がほとんどです。

そのような境遇の少年は「大人の言うことなんて信用しない」と、とても頑なです。そこでまず、少年院の教官は人間的な関係性を取り結ぶことに力を割き、少年が心を開くようになってきたところで働きかけていきます。

普通であれば、親や地域、学校で自然と教わっている常識や人間関係の持ち方など、基本的なことを学ばせる必要がありますので、集団で生活する中で、役割活動をさせたり、規則正しい生活習慣を身に付けさせることからきめ細かく行っています。

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