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山田悟:緩やかな糖質制限「ロカボ」で世の中を変える

2019/11/15

カロリー制限神話を打破する

──こういった食生活の改善を普及させているのですね。

山田 2013年に「一般社団法人食・楽・健康協会」という団体をつくり、ファミレス、コンビニをはじめ、いろいろな企業に、楽しくて続けたくなる健康な食生活のあり方を、地道にお伝えする活動を続けて6年たったところです。

──以前は「カロリー制限」という方法が主流だったと思います。これを糖質制限へ変えていかれた。これは大変ではありませんでしたか。

山田 実は、僕らもずっとカロリー制限食は正しいものだと信じて、患者さんにずっと指導してきたけれど、実は本当に意味がないんですね。

今のカロリー制限食は、現在ガイドラインに載っている内容でも、もっと厳しい場合でも、体重を増やしてしまったという研究が報告されています。

だから、カロリー制限神話をなんとか打破したかったのです。結局、1日おなかを空かせて我慢して、自分はやれている気になっても、ある日に、今日くらいは、とおなかいっぱい食べてしまうので、最終的には同じエネルギー摂取量になりかねないのです。

──カロリー制限は、食べる量を抑える、量の規制ですが、糖質制限は、糖質さえ取らなければ量は食べていいのですね。私も実際にやってみましたが、明らかに糖質制限のほうがストレスフリーで長く続けられますね。

山田 僕も昔、今より体重が10キロぐらい重いときがあり、カロリー制限をやって、ものの見事にリバウンドしました。糖質制限に出会ってからは、日々満腹になるまで食べても、ちゃんと学生時代の体重にとどまっています。

──でも、糖質制限がまったくストレスフリーかというと、日本人はご飯が大好きなので、それを我慢するのが一番ハードルが高いですね。

山田 おっしゃる通りです。だからこそ食・楽・健康協会の企業さまに、低糖質のパン、麺、スイーツなどの開発をしていただいています。低糖質でふっくら、もっちりしたお米ができれば一気に解決するのです。

そういう意味では、今回湧井君が、「日本橋ロカボ祭」のために開発してくださった、「サーモンとアボカドのオリーブオイル丼」は素晴らしいですね。少し糖質を抑えたお米を使い、サーモンとアボカドの脂やタンパクで糖質を抑えながら、上手くマスキングしていただいた。

日本の米の文化を享受しながら糖質制限できると、これは絶対輸出産業になるはずなのです。

日本橋からの発信

──昨日、今日(10月28、9日)とやっている「日本橋ロカボ祭」は今年が2年目ですね。

山田 湧井君をはじめ日本橋の飲食店の皆さま方のお力添えをいただいています。1つのお店だけではなく、日本橋という日本の文化の源のような地域全体でやっていただけているのは本当にうれしいことです。

──糖質を下げることと、おいしいものをどうやって両立させるのかは結構悩んだところです。最初に話を聞いたときは、「そんなのできないよ」と思いました。

山田 先ほどの「サーモンとアボカドのオリーブオイル丼」をはじめ、皆さまに素晴らしい食事を作っていただいています。私が日本橋の料理人の方たちにお願いしたのは、ひたすらおいしいロカボ食を出していただきたいということです。お客さまだって、おいしくて不健康なものと、おいしくて健康なものだったら、やはり健康なものを選ぶはずですから。

日本橋料理飲食業組合の組合長の「舟寿し」の二永さん、「繁乃鮨」さん、和食の「ゆかり」さんなど日本橋を代表する有名な老舗の方に入っていただきました。さらに「にんべん」さんと、「榮太樓總本舗」さんにもご協力いただき、去年から日本橋からロカボを発信しよう、と「日本橋ロカボ祭」を始めたんですね。

──実はこのきっかけは、3年前の「中等部同窓会の日」の幹事年だったことなんですよね。そこで同期の山田君にロカボの講演をしてもらい、その考え方に則した料理を僕が作ることになったんです。やはり日本橋で健康になれると思ってほしい。日本人がマインドチェンジをするきっかけになればと思います。

山田 有り難い限りです。福澤先生は実学を重視されましたが、論文や研究は理論でしかないので、それが初めて日本橋の料理人の方たちの力や企業さんのお力を借りて、形になることは実学そのものだと思うんですよね。

実は北里柴三郎先生も「叡智と実践」ということを言われている。叡智に支えられてない実践はいずれ廃れてしまう。だけど、実践できないような叡智は価値がない。理論と、現実世界の食がお互いを高め合う関係になれば、ロカボは世の中に広められると確信しています。

やはりまだまだ「健康によい食事=おいしくない食事」「伝統に反するような考え方」という見方がある。その中で、日本橋で和の伝統をしっかり守りながら、おいしいロカボがあれば、世界に広がっていくと思っています。

──サッカーの長友佑都さんの食事のアドバイザーをされていると聞いています。スポーツとロカボも、やはり密接な関係にあるということですか。

山田 昔は、糖質を食べていないと筋肉内のグリコーゲンという栄養源が足りなくなってしまうと考えられ、僕らも学生時代はそう教わっていました。しかし、実はエネルギーさえしっかり取っていれば、糖質を制限していてもグリコーゲンの貯蓄はちゃんとできることが分かってきています。

3年ほど前、長友さんが、どうも自分は血糖値が乱高下すると運動パフォーマンスが落ちていると感じる、と雑誌に書いていました。それで、これは糖質制限が効くなと思って、出版社さんを通じてご連絡したら、関心を示してくださってお会いしました。

そして、実際にロカボを取り入れたら、足がつる頻度が減ったり、ケガからの回復が早くなった。体感としては、本当に調子がよくなり、また圧倒的に筋肉の質がよくなったということで、ロカボに傾倒してくださったんです。

──有名な方が支持してくれると、認知が広がりますよね。

山田 そうですね。病気の人が健康になるための食事というだけではなく、アスリートがパフォーマンスを向上させるためにロカボを取り入れているのが知られると、本当に広がっていくかなと思っています。

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