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山田悟:緩やかな糖質制限「ロカボ」で世の中を変える

2019/11/15

  • 山田 悟(やまだ さとる)

    北里大学北里研究所病院糖尿病センター長
    塾員(1994医)。医学博士。「一般社団法人食・楽・健康協会」代表理事。2007年より現職。糖質制限の第一人者として活躍中。

  • インタビュアー湧井 浩之(わくい ひろゆき)

    うなぎ割烹「大江戸」取締役・塾員

「ロカボ」という食事療法

──糖尿病の専門医である山田君が「ロカボ」という糖質制限食を提唱されて話題になっています。このロカボとはどういうものですか。

山田 「ロカボ」というのはローカーボハイドレート(Low carbohydrate)を縮めたものです。カーボハイドレートとは炭水化物のことですが、炭水化物は糖質と食物繊維に分けられます。ただ、この「ローカーボハイドレート」という言葉は、アメリカなどでは極端な糖質制限も含む概念・呼称で、きつい食事制限を求めると、つらくて続けることができなくなってしまう。そこで、僕らは「緩やかな糖質制限」を「ロカボ」として広めているのです。

ロカボが効果を発揮する「メタボ」(メタボリックシンドローム)とか、筋肉や骨が衰えていく「ロコモ」(ロコモティブシンドローム)と同じように3文字で略すと馴染みやすいとも思いました。とにかく、糖質を緩やかに制限して、食生活を楽しむということを条件にしているのです。

──そうやって、糖尿病の方、もしくはその予備軍の方の食生活を改善していくということですね。

山田 はい。そもそも糖質制限は、糖質を控えるだけで、体重、血糖、血圧、高脂血症、といった、いわゆるメタボリックシンドロームの構成要素がすべてよくなるという食事療法なのです。

昔は食べ過ぎるから肥満になる、と思われていましたが、実はそうではなく、今ではエネルギーの取り過ぎは結果として起こるのであり、原因は糖質の取り過ぎだと分かっています。

糖質を過剰に取ると食後の高血糖が起こる。すると、それを抑えるために、遅れて大量のインスリンというホルモンが出てくる。そして脂肪細胞にエネルギーを放り込んで肥満をつくると同時に、急激な血糖の降下を生みます。

この急激な血糖の降下がすさまじい空腹感をつくるんです。そして、あらがいようのない食欲が出て食べ進んでしまう。だから食べ過ぎが起こって肥満が助長されるのです。肥満が起こると、内臓脂肪から血圧を上げやすくする物質も出て、そこから出てきた脂が高脂血症をつくることにもなる。

──そういう意味で糖質制限が重要なのですね。

山田 そうです。食後の高血糖を抑制すれば、メタボの構成要素をすべて抑制できる。食後の高血糖をつくる要素は糖質だけなので、それを控えることでメタボをやっつけられることが分かってきました。

なぜ「緩やか」でなければいけないかというと、極端にやったほうが治療効果が大きいように思えても、現実には、続けられなくなり、リバウンドしてしまうからです。

僕たちは、1食につき糖質を20グラム以上、40グラム以下にしてそれを3食、それとは別に1日に10グラムの嗜好品までをOKとし、食事を楽しみましょうという、緩やかな糖質制限「ロカボ」を提唱しているのです。

──ロカボというのは、ダイエットなんでしょうか。

山田 太っている人にとってはダイエットです。しかし、日本人には痩せていて糖尿病の人もいるので、その人にとっては体重を落とすことが目的ではなく、あくまでも血糖値の是正が目的になります。こういう人は筋肉を付けながら血糖を管理することが必要で、ロカボはそれが可能なのです。

──健康になるための食生活が、ロカボの目的なのですね。糖尿病の方は日本でどのくらいの数がいるのでしょう。

山田 糖尿病患者の方が1千万人、その予備軍が1千万人と言われていますが、実はこれは空腹時採血でしか見ていない。本来、日本人など黄色人種は食後の血糖値が上がりやすいのでそれを調べるべきなんですね。そうすると私は4千万人程度の血糖値異常の方がいるのではないかと思っています。

ですからロカボという食生活は、30代になったら全員が行ったほうがいいと僕は思っています。

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